第19回試験問題について、ご意見・ご質問を頂戴しまして、ありがとうございます。
以下のとおり、ご質問へご回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■第19回・3級・問43
【設問】
白夜(びゃくや)と反対に太陽が地平線上に出てこない日を何と呼(よ)ぶか。
① 不夜(ふ や)
② 暗夜(あ ん や)
③ 闇夜(や み よ)
④ 極夜(きょくや)
【正答】
④ 極夜(きょくや)
【解説】
地球の極地域(きょくちいき)で、夜になっても太陽が地平線の下に沈(しず)まない、もしくは沈
んでも薄明(はくめい)が続く日を白夜(びゃくや)と呼(よ)ぶ。逆(ぎゃく)に、太陽が地平線
の上に出てこない日は極夜(きょくや)と呼ぶ。不夜(ふ や)は一晩(ひとばん)中明かりが灯(
とも)って街(まち)が賑(にぎ)わっている不夜城(ふ や じ ょ う)などで使われる。暗夜(あ ん
や)も単独(たんどく)ではなく暗夜行路(あ ん や こ う ろ)などで使われる。月のない暗い夜が闇夜
(や み よ)である。
【質問】
問題の選択肢として「④極夜(きょくや)」とされている一方で、今回の検定の出題範囲とされている
『天文宇宙検定公式テキスト3級2023~2024年版』(38ページ)では、極夜のふりがなが「ごくや」と
されています。大人を対象とした試験では特段の問題はないと思いますが、年齢層の低い方も参加され
る試験においては、ふりがなの違いは大きな影響が出るおそれがあるものと考えます。今回は正解が
「④極夜(きょくや)」になっていますが、選択肢として適切だったのでしょうか?
【回答】
『天文宇宙検定公式テキスト3級2023~2024年版』において、極夜(きょくや)とすべきところを極夜
(ごくや)と、ふりがなに誤植がありました。深くお詫び申し上げます。
本問は、全員正解として採点いたします。
3級試験は、中学生以上を受験対象と想定しておりますが、漢字のフリガナを正誤の判断基準とする年少
受験者が、一定数いらっしゃいますので、配慮の必要性があると判断いたしました。
■19回・2級・問50
【設問】
生物とウイルスのもつ共通の性質に関する説明文として正しいものはどれか。
【選択肢】
① 外界と境界によって隔たれた構成単位をもつ
② 核酸をもち自己複製を行うことができる
③ ミトコンドリアをもちエネルギーの産生を行うことができる
④ 自分自身で代謝を行うことができる
【正答】
②
【解説】
核酸とそれを包むタンパク質の殻からなるウイルスは、細胞のような構成単位はなく、ミトコンドリア
のような細胞小器官ももたず、自分自身で代謝をしない。一方で、核酸をもち、自己複製ができる生物
特有の性質をもっている。
【質問】
第50問の生物とウイルスの共通点に関する問題で、解答速報では ②核酸をもち自己複製を行うことが
できる が正答となっていましたが、ウイルスは宿主に寄生することで増殖するので単独での増殖、自
己複製はできないのではないかと思います。
生物の細胞とは構造が異なりますが、ウイルスにも外界と隔てる膜のような構造は存在しているので
①外界と境界によって隔てられた構成単位をもつ が正答に近いのではないかと思うのですが、いかが
でしょうか。
【回答】
ご指摘ありがとうございます。
この問題は2級テキストの記述通りの設問ですが、本件に関して、いままでではじめての鋭いご指摘で
した。ウイルスの定義は難しいのですが、現在の一般的な考えとしては、ウイルスは核酸とタンパク質
のみからなっており、細胞膜のような構成構造はないとされています。
「複製を行うことができる が正答となっていましたが、ウイルスは宿主に寄生することで増殖するの
で 単独での増殖、自己複製はできないのではないかと思います。」ここも鋭いご指摘です。ご指摘のよう
に、ウイルスは“単独での増殖”はできません。しかしながら、寄生して核酸を宿主に入れることで、自分
自身の複製(自己複製)を行います。自己増殖・自己複製はしばしばひとかたまりで出てきますが、
ウイルスの場合はこれらが切り離されていて、設問やテキストでも、後者の自己複製のみが、取り上げ
られているものです。
以上の点から、この問題については、テキスト通りを正答とさせていただきますが、本公式テキストに
せよ、学校の教科書にせよ、テキストが常に正しいとは限りません。今後も疑問など生じたら、検定試
験時以外でも、いつでも質問をお寄せください。
■第19回・1級・問3
【設問】
3軌道長半径a、離心率eの惑星の運動を考える。図のように、惑星が近日点Aに来たときの公転角速度を
ω_1、短軸上の点Bに来たときの公転角速度をω_2とするとき、ω_2/ω_1はどのように表されるか。なお、
Sは太陽、Oは楕円の中心とする。
【選択肢】
【正答】
③
【解説】
ケプラーの第2法則より、角運動量が保存する。惑星の質量をm、太陽からの距離をr、角速度をωとする
と、mr2ω=一定となる。ここで、近日点Aでは、r=a(1-e)、短軸上のB点ではr=aとなる。したがっ
て、ケプラーの第2法則より、 ma2(1-e)2ω_1=ma2ω_2の関係が成り立つ。これから ω_2/ω_1=(1-e)2
となり、③が正答となる。なお、楕円の2つの焦点をF(これは太陽Sの位置となる)、F´とすると、FB=F
´Bである。長半径aの楕円は2つの焦点から距離の和が2aで一定となる点の軌跡で表されるので、FB+F´B
=2aとなるから、FB=SB=aとなる。
【質問】
次の点が気になりましたので質問します。
問題3の図の公転角速度ωのベクトル表示についてですが、角速度ではなく、接線速度ベクトル表示では
ないでしょうか。(うかつにも私は速度ベクトル表示と勘違いして1/2(rv)=一定という「面速度一
定」の公式を適用して間違えてしまったのですが)本来角運動量保存則としてはL=r×p(ベクトル表
示)=r×mv(直交する場合)=rmrω=mr²ωと表示されますので、角速度は図面に垂直な方向に表
示されるべきではないでしょうか。
誤解を招きやすい図示であり、各速度ベクトル表示としては間違いではないかと思うのですがいかがで
しょうか。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
図の楕円に接するベクトルは、その場所での速度ベクトルです。つまり、惑星の運動方向を示している
にすぎません。速度ベクトルの付近に角速度ωを図の中に書き込んでいますが、ωはベクトル表記(太文
字)にはしておりませんし、問題文で「角速度ω」と明記しています。つまり、この図のωはスカラー
(大きさ)を表しています。図の速度ベクトルを角速度ベクトルと誤解されたということですが、そも
そも、速度と角速度の違いは、1級レベルでは正しく把握してほしい部分ですので、正答を含め、現行
のままで処理させていただきます。なお、角速度ベクトルは、おっしゃる通り、図に対して垂直上面を
向いておりますが、その場合はωも太文字のベクトル表記になります。
■第19回・1級・問32
【設問】
太陽以外の天体から飛来するX線を発見したのは誰か。
【選択肢】
① ブルーノ・ロッシ
② リカルド・ジャコーニ
③ マーテン・シュミット
④ アーノ・ペンジアス
【正答】
①
【解説】
太陽からのX線は1949年に検出されていたが、他の天体は遠いのでX線では観測できないと思われてい
た。ロッシは小さなガイガー計数管をロケットに載せて打ち上げ、1962年、はじめて太陽以外からの宇
宙X線を検出した。ジャコーニはX線天文学を発展させた立役者で、2002年のノーベル物理学賞を受賞し
た。シュミットはクェーサーの発見者、ペンジアスは3K宇宙背景輻射の発見者である。
【質問】
件名の通り、今回の1級32問についてお伺いしたい点がございます。
解答速報では、①のブルーノ・ロッシが正解となっており、解説でも1962年、初めて太陽以外からの宇
宙X線を検出した、とありますが、これに該当すると思われるブルーノ・ロッシの1962年の論文、
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.9.439
には②のリカルド・ジャコーニも名前が出ております。したがって②も正解なのではないでしょうか?
【回答】
ご指摘ありがとうございます。
宇宙X線観測の研究全体の主導者はロッシで、天文学史的に、宇宙X線の発見者はロッシとされていま
す。設問もその意図でしたが、明瞭ではありませんでした。
またご指摘のように、1962年の最初の論文には、ジャコーニも入っており、選択肢には紛れがありま
した。以上の点から、本問題については、全員正解とさせていただきます。
○第18回 天文宇宙検定受験者データ
※公開数値は、すべて会場受験とオンライン受験を合算したもの。
○第18回 点数分布・受験者年齢構成・正答率
各級受験者の点数分布表、受験者の年齢構成表とあわせ、各級の設問について正答率の高かった問題、低かった問題についてみてみよう。なお点数分布の太線は合格点を表す(1級試験60点以上で準1級合格、70点以上で1級合格となる)。
〇4級
■正答率の高かった問題
【問31】太陽表面にみられる黒点の説明のうち正しいものを選ぶ問題(96.2%)。「まわりよりも温度が低いため暗く見えている」が正答。太陽表面が約6000℃であるのに対して、黒点は約4000℃。現れる位置や形、数が決まっているわけではない。【問15 】探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」の天体としての種類を問う問題(95.1%)。正答は「小惑星」。その大きさや形はさまざまで、火星の公転軌道と木星の公転軌道の間には、数百万個を超える小惑星があり、小惑星帯と呼ばれている。
【問29】日本における午前10時ごろの太陽の位置を図から選ぶ問題(94.8%)。東京(北緯36度)の場合、1年で一番昼が長い夏至(6月21日ごろ)には、太陽の正午の高さが1年で一番高くなる。
■正答率の低かった問題
【問17】現在進行中のアルテミス計画のミッションについて問う問題(21.2%)。ミッションを正しく3つの段階にわけたものを選ぶ問題。現在はミッションⅡである月周辺まで4人の宇宙飛行士の飛行が計画されている。【問22】太陽系を脱出した探査機が他の太陽系の中を通過する確率を問う問題(27.8%)。探査機「ボイジャー」が他の恒星を中心とする直径1光年の範囲を通過する可能性は100億~1000億年に1度ほどと考えられている。
【問21】双眼鏡本体に書かれている数字の意味を問う問題(42.6%)。設問では、10×42と書かれている写真が添えられていた。これは、双眼鏡の倍率とレンズの直径を示すもので、本問の場合だと、倍率10倍で、レンズ口径が42㎜であることを示す。
〇3級
■正答率の高かった問題
【問9】古代中国での主要な五惑星に含まれない惑星を選ぶ問題(97.8%)。海王星は理論的予測に基づいて1846年に発見された惑星で、五惑星には含まれていない。海王星の発見については国際的な先取権論争が生じたことでも有名である。【問1】古代ギリシャ語で月を表す言葉を選ぶ問題(89.8%)。ギリシャ神話の月の女神の名前「セレーネ」が正解。ギリシャ神話については、主に4級で取り扱うが、天文学とは関わりが深い。【問16】国際宇宙ステーション(ISS)では、1日に平均何回、日の出を迎えるかを問う問題(89.8%)。ISSは約90分で地球を一周していることから約16回とわかる。フルマラソンの距離を5秒で完走してしまう速度とも表現できる。
■正答率の低かった問題
【問32】地球を周回して、地球以外の天体の観測を行った人工衛星を選ぶ問題(22.7%)。正解は、約10年にわたって高度550㎞からブラックホールなどを観測した「すざく」。
【問26】地球の軌道面に準拠した天球座標を選ぶ問題(27.8%)。さまざまな座標があって混乱するが、それぞれの使用目的と座標名を関連付けて覚えよう。【問45】平均の密度が最も小さい惑星を問う問題(28.1%)。選択肢の中には太陽系で最も密度が低いことで知られる土星はなく、岩石惑星のみから選ぶ問題であったことが、低い正答率であった要因と思われる。正解は火星。
〇2級
■正答率の高かった問題
【問11】ビッグバン以前に宇宙が急激に膨張した様子を表す語を問う問題(94.1%)。経済用語を転用した「インフレーション」が正解。アラン・グースが最初に用いたといわれる。【問36】高温プラズマ状態であった宇宙が、膨張に伴い冷えて、光が長距離を直進できるようになったことをなんというか問う問題。正答は「宇宙の晴れ上がり」(91.9%)。ビッグバンから約38万年後に起こった。ビッグバンから現在に至る宇宙の歴史について、主な出来事が起きた順番やその特性を問う問題は2級の定番問題である。【問20】系外惑星を見つけるための手法でないものを選ぶ問題(87.3%)。サンプルリターン法は、日本の探査機「はやぶさ」で馴染みがあるためか正答率が高かった。
■正答率の低かった問題
【問48】均時差に関する説明文の穴埋め問題(15.3%)。テキストでは章の中扉に写真付きで解説が掲載されている。グラビアページからの出題も多いので注意。【問23】ケプラーの法則を用いて、水星の軌道離心率と軌道長半径から、近日点と遠日点の太陽-彗星間の距離を求める計算問題(18.9%)。ケプラーの法則に関する問題も、頻出問題ではあるが、毎回正答率が低い。数式をうまく活用できるようにしておこう。【問57】局部銀河群に属し、地球から280万光年にある銀河を問う問題(19.9%)。正解はM33(さんかく座銀河)。天の川銀河、アンドロメダ銀河とともに局部銀河群を形成する主要な銀河のひとつ。
〇1級・準1級
■正答率の高かった問題
【問38】太陽表層の温度と密度分布を表すグラフ中に示された点の領域名を選ぶ問題(83.9%)。これは類題がときどき出題される定番問題なので、90%はほしいところだ。【問33】ドップラー法によって得られる情報として正しいものを選ぶ問題(83.0%)。ドップラー効果は天体の運動を検出するための基本的な観測方法だ。【問19】選択肢の数式から、近日点における公転速度を表す式を選ぶ問題(66.1%)。数式の出題としては、正答率が高かった。
■正答率の低かった問題
【問5】月および惑星の質量と半径の関係を表した理論曲線において、読み取れるものを選ぶ問題(2.7%)。地球のような岩石惑星は、重力作用で球状にはなっているが、質量が変わっても密度はあまり変化しない。したがって、理論曲線の左側のように、質量は半径の3乗に比例して増加する。これは身の回りの固体物質と同じ性質で、固体物質を結び付けているのが静電エネルギーであるためだ。
【問1】超大質量ブラックホール同士の合体から生じる重力波の検出が可能な観測方法について問う問題(6.3%)。最先端の話題の一つであったが、重力波については、テキストなどでもあまり学ぶ機会がないので難易度が高かったかもしれない。
【問15】ブラックホール時空を表現した座標系の名称を選ぶ問題(11.6%)。このタイプの問題はおそらくはじめてで難易度も高かったようだ。曲がった時空間であるブラックホール4次元時空(実際には2次元に落とした時空)を表す方法は数多く考案されている。このような機会にあまり見慣れない時空表現に触れてもらいたい。
〇第18回天文宇宙検定 講評
まず今回の検定のグッドニュースとバッドニュースから簡単に述べたい。
バッドニュースとしては、今回の試験では残念ながら1級合格者が0名であった。これは当検定試験において2回目のことで、前回は第15回試験(2023年5月開催)で1級合格者が出ていない。他の級と同じく1級の試験も毎回同じぐらいのレベルにしているつもりだが、難易度は多少は変動するし、そのときどきでの問題と受験者の相性のよしあしもあるだろう。あと一歩という方はおられたので、懲りずに挑戦を続けていただきたい。
またグッドニュースとしては、今回、当検定では初めて、オンライン受験を導入した。会場に赴くことが難しい受験者の利便性を考えてのことである。さらに当検定の趣旨は楽しみながら天文学を学んでいただくことであり、その学びの成果を自分で確認してもらうことなので、カンニング等は起きないだろう(無意味だろう)と判断したためだ。さて、フタを開けてみると、会場受験者とオンライン受験者の平均点を比較すると、その差はほとんど認められなかった。みなさん、カンニングなどせず、誠実に自分と勝負されたようである。唯一、4級の合格率についてのみ、オンライン受験者の合格率の方が5%ほど高かった。これはオンライン受験資格を中学生以上としたことにより、年少者が受験していないことが影響したと思われる。オンライン導入に際しては、小学生のオンライン受験を希望する声が多く寄せられたので、次回(第19回)から、小学生のオンライン受験を許可することとした(詳しくは公式ホームページ参照)。
さて、毎回、講評の前半では、各級で、正答率の高かった問題と低かった問題について、簡単に紹介している。今回は、問題の正答率について、少し考察・議論してみたい。
まずは正答率の高かった問題の正答率をみてみよう。4級から2級については、正答率の高かった問題の正答率はおおむね90%以上で、100%に近い場合もあった。また基礎的な問題や定番問題では正答率が高くなる。この傾向は今回に限らず、従来もだいたい同じだ。4級から2級については、出題範囲がテキストに限られているので、テキストをきちんと勉強すれば、その成果がきちんと出るということだろう。ただし、出題範囲が限られていない1級では、さすがに正答率が高いものでも80%ぐらいだ。論理的に考えて正答に辿り着ける問題も少なくないので、知らない内容の問題でも、論理的に正答を推測できないか、時間の許す限り考えてみてほしい。
つぎに正答率の低かった問題の正答率をみてみよう。4級から2級については、正答率の低かった問題の正答率は20%から30%ぐらいが多い(今回の2級は少し低いが)。従来も同様な傾向がある。単純に考えれば、問題の答えがわからなかったのだと思われる。すなわち、4択問題なので、ランダムに回答を選べば、正答率の期待値は25%になるわけだ。テキストは決まっているので、苦手な分野(章)もしっかり読み込んでもらえば、確実に、これらの問題の正答率は上がるだろう。さらに、問題はわからなくても、正答(あるいは正答でない選択肢)の予想がつくこともあるので、下位の級の復習なども含め、幅広く勉強することを勧めたい。ただし、1級では、正答率が低いものは10%程度しかなくて、ランダムに選択した場合より明らかに低いように思われる。1級受験者はさすがにランダムに回答を選んでいるわけでないようだが、逆に、考えすぎてしまうのだろうか。理由ははっきりしないが、この数年の正答率を眺めて、一番、興味深かった現象である。
現代の天文学は文字通り日進月歩であり、2025年6月頃に出版予定の公式テキスト2025年-2026年版でも、新しい内容が盛り込まれている。これからも楽しみながら学び続けてほしい。
2025年4月吉日
天文宇宙検定委員会