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第16回天文宇宙検定 受験者データと講評

第16回 天文宇宙検定(2023年11月19日)の受験者統計データと天文宇宙検定委員会による講評文を発表

します。

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受験者データ

試験問題の難易度

1)正答率の高かった問題

最も正答率が高かった(やさしかった)問題を1位として、各級の上位10位までを並べた。

「問No.」は、試験出題番号を表す。

出題問題と正答・解説は解答速報をご覧ください。

3級の問26は、設問に誤りがあったため、全員正答とした。詳細は後述。

2)正答率の低かった問題

最も正答率が低かった(難しかった)問題を最下位に、各級の正答率が低い順に10位までを並べた。

「問No.」は、試験出題番号。

出題問題と正答・解説は解答速報をご覧ください。

1・4級の出題数は全40問、2・3級は全60問が出題された。詳細は後述。

年齢別合格率

年齢別の合格率は以下のとおりであった。最下段は各級の合格率を示す。

◎得点分布

各級の受験者の点数分布は以下のとおりであった。表の太線が合否の境界を示す。
1級試験の場合は、60点以上70点未満で準1級合格、70点以上で1級合格となる。

4級

4級受験者の年齢構成をみると、10歳未満と10代で全4級受験者の過半数を超えた(53.0%)。合格率は、前回(82.7%)とほぼ同じで85.3%と8割を超えている。年齢別に合格率をみると、10歳未満(79.5%)、10代(80.6%)で、成人では85%を超えた。これらの傾向は、この数年にわたって変化はない。今回の試験での最高得点は満点の100点であった。

正答率が9割を超えた問題は、6問あった。高いものからみてみよう。
【問1】地球は北極と南極を通る直線を軸にして1日1回転している。これを何というか。正答は「自転」(正答率96.5%)。
【問10】オーロラがたくさん見られるのは、地球のどの地域か。正答は「北極や南極の近く」(正答率95.4%)。オーロラ発生の原因となる太陽風のプラズマが、巨大な磁石ともいえる地球の磁力線にそって両極へ降り注ぐためである。
【問25】次の文は、ある惑星についての説明である。どの惑星について述べたものか。「地球よりも小さいために、重力が地球の40%ほどしかなく、そのため大気がうすくなっている。地表面には、赤さびの成分の酸化鉄がたくさんあるため、赤く見みえる」。正答は「火星」(正答率94.3%)。太陽系惑星の特徴に関する設問は、4級ではよく出題される問題である。火星は夜空に赤くどっしりと輝いている見つけやすい星だ。
【問21】次のうち、天体望遠鏡で観察できないものはどれか。正答は「太陽風」(93.2%)。
【問7】星をさがすときの「手のものさし」で、およそ10°を示すのは次のうちどれか。正答は「こぶし(グー)1個がおよそ10°」(正答率91.0%)。うではひじをのばした状態で測る。天体観測のさまざまな手法について学ぶのも4級の特色である。星のよくみえる地に行かれたら、ぜひこの知識を生かしてほしい。
【問23】地球で体重が48kgの人が、月面で体重計に乗ると何kgになるか。正答は「8kg」(正答率90.2%)。月の重力が地球の約6分の1しかないことによる。

正答率が過半数に満たなかった問題を正答者が少なかった順に挙げてみる。
【問11】次の中で、自転軸の傾きが一番大きい惑星はどれか。正答は「金星」(正答率19.9%)。金星は、他の惑星と異なり、逆向きに自転している。自転軸の傾きは177°である。ほぼ横倒しで自転している天王星を選んでしまった方が多かったようだ。
【問40】1つの星座なのに2つの部分に分かれている星座はどれか。正答は「へび座」(22.1%)。へび座はへびつかい座が持つへびの部分。へびつかい座と絵としては一体化しており、2つの星座が重なっている部分はへびつかい座としたため、へび座は頭部と尾部の2つにわかれてしまった。
【問6】星雲や星団、銀河にはMとかNGCという記号がつけられている。これはそれぞれ天体に番号をつけたカタログの記号である。次のうち、まちがっているものはどれか。正答(まちがっているもの)は、「MとNGCではMの方が数が多い」(正答率30.0%)。それぞれの記号がつくられたいきさつを理解していると正答にたどりつくのもたやすいだろう。
【問26】太陽を直径1mの球だとすると、アンタレスはどのくらいの大きさになるか。正答は「直径700mの球で、東京スカイツリーがすっぽり入るくらい」(正答率48.2%)。アンタレスは夏の代表的な星座であるさそり座の心臓にあたる1等星で、赤く輝く目立つ星である。さそり座のしっぽのS字の星の並びは見つけやすいので、夏の夜、南の空を探してみてほしい。

3級

受験者は10代が最も多く(36.8%)、20代と併せると54.7%を占めた。今回の合格率は前回(74.5%)よりもわずかに下がった71.2%であった。3級は中学での天文学履修レベルを想定しての出題である。10歳未満の合格率は46.4%。10代合格率は57.4%であった。その他の世代の合格率は、最も高い30代の90.9%を筆頭に50%を超えた。得点分布をみてみると70~79点が全体の23.3%を占めている。今回の試験での最高得点は98点であった。

正答率が9割を超えた問題は、次の7問。
【問26】図は天の南極を中心とした星座図だが、Aの星の名は何か。設問では星座図から恒星名を問う設問であったが、正答であるおとめ座のスピカを指す矢印の位置に誤りがあったため、全員正答とした。あらためて、お詫び申し上げ、訂正いたします。
【問30】天文単位とは、どんな単位か。正答は「もともとは地球-太陽間の平均距離を1とした長さの単位」(正答率96.7%)。
【問23】次の写真は何か(巨石遺跡の写真から名称を選ぶ問題)。正答は「ストーンヘンジ」(正答率93.3%)。
【問53】次の太陽系の天体で、環を持たないものはどれか。正答は「火星」(正答率93.3%)。太陽系惑星の環については4級テキストにも記述がある頻出問題。ただし、準惑星や小惑星の特徴については、3級テキストに詳しい。
【問47】現在、世界の多くの国々で採用されている太陽暦の名前は何か。正答「グレゴリオ暦」(正答率91.4%)。ふだん何気なく使っている暦は先人たちの苦労の賜物。様々な暦が歴史上に存在しているのをおさらいすると、為政者たちの思惑もからんでおもしろい。
【問49】水星、金星、火星の惑星記号をこの順に並ならべたものはどれか。正答は解答速報を参照願いたい(正答率91.3%)。惑星記号は3級の定番問題となっている。星座記号や天文符号は占星術でも用いられるので、本やテレビでみたことがある人も多いだろう。由来とあわせると覚えやすい。
【問46】暗黒星雲の主成分はどれか。正答は「ガスと塵」(正答率90.5%)。そのガスの主成分は、宇宙にもっとも多く存在する元素である水素と、次に多いヘリウムである。

正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問40】宇宙線の粒子で最も多いものはどれか。正答「陽子」(正答率11.5%)。陽子は宇宙線の成分の約90%を占める。
【問37】トロヤ群小惑星のうち、木星の進行方向前方のものを特に区別するときは、何と呼ぶか。正答は「ギリシャ群」(正答率25.1%)。叙事詩『イリアス』に書かれたトロイヤ戦争にちなんで名づけられたという。
【問51】二十四節気の1つである「処暑」は、いつ頃ごろになるか。正答は「立秋と秋分の間」(正答率30.1%)。立秋は8月7日頃。秋分は9月22日か23日頃。地球温暖化が問題視されて久しいが、二十四節気を覚えていると、四季の移ろいにも趣を感じられるようになるだろう。

2級

平均合格率は、前年(43.6%)とほぼ変わらず43.8%。平均点は前回と同じ65.3点だった。得点分布をみてみると、70~79点に24.9%のピークがある。合格率は、過去4回つづけて40%台となっている。今回の試験での最高得点は満点の100点であった。

正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問45】次のうち、赤色巨星はどれか。正答「オリオン座のベテルギウス」(正答率91.1%)。「超新星爆発するぞ、もうするぞ!」と、メディアにあおられ続けているあの星である。
【問3】京都モデルによると、惑星はどのように誕生したと考えられているか。正答は「原始太陽系円盤の中の塵が集まって微惑星となり、それらが衝突合体して惑星ができた」(正答率89.4%)。京都大学の林忠四郎が提唱した京都モデルは現在もっとも有力視されている太陽系形成のシナリオである。優れた業績を上げた天文学者に与えられる日本天文学会林忠四郎賞が1996年に創設されている。
【問44】次のHR図中で、褐色矮星が位置するのはどこか。正答は解答速報を参照(正答率89.4%)。HR(ヘルツシュプルング・ラッセル)図は高校地学の教科書にも掲載される2級試験の頻出問題のひとつ。
【問26】太陽と同程度の質量の恒星は、星の終焉にはどのような星雲を形成するか。正答は「惑星状星雲」(正答率89.0%)。続々と公開されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた画像のなかでも、惑星状星雲は、かつての天体写真しか知らない世代には驚きを与える鮮明さである。
【問21】宇宙の内容物を分類したとき、最も割合の多いものはどれか。正答「ダークエネルギー」(正答率86.6%)。タークマターに引っ張られてしまった受験者が若干。宇宙の過半を占めるものが、未だ正体のわからない未知の物質というのは何とも不可思議な話である。
【問48】十干十二支の組み合わせは何通りあるか。正答は「60通り」(正答率86.4%)。還暦の由来である。

正答率が低かった問題は、難しかった順に以下が挙げられる。
【問42】太陽コロナのうちKコロナについて正しく述べたものはどれか。正答は「コロナ中の電子は5000 km/sもの高速で運動している」(正答率20.7%)。
【問47】銀河の衝突に関する記述のうち、間違っているのはどれか。正答は「天の川銀河は現在、他の銀河と衝突していない」(正答率24.9%)。天の川銀河は現在もいくつかの矮小銀河と衝突中である。
【問13】惑星の軌道に関する記述のうち、正しいものはどれか。正答は「離心率eの惑星の近日点での公転速度は、遠日点の公転速度の(1+e)/(1-e)倍である」(正答率25.0%)。ケプラーの法則については、2級の定番ともいえる問題であるが、毎回、正答率が低い傾向がみられる。
【問46】次の天体の中で、水素からヘリウムを合成して安定して輝いているB型星の割合が最も少ないと考えられるものはどれか。正答は「りょうけん座のM 3」(正答率 25.6%)。B型星は高温の主系列星で若い星であり寿命が短いことから、老いた星の集まりである球状星団に少ないとわかる。
【問8】次のうち、4つの天体が発見された順に正しく並んでいるのはどれか。正答は「天王星-ケレス-海王星-冥王星」(正答率27.0%)。ピアッツィによるケレス発見がいつかわからなかった方が多かったようだ。ケレスは小惑星帯にある最大の天体で、1801年に発見された。

1級・準1級

今試験の1級合格率は1.6%。過去3年にわたって合格率は5%を超えていない。平均点は43.5%であった。準1級は、60点以上70点未満が合格となるので、1級受験者のうち4.7%が準1級に合格された。1級受験者の81.3%が男性であった。今回の試験での最高得点は77点であった。

正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問8】2023年は、あるものが発明されて100年という節目の年である。あるものとは次のうちどれか。正答は「プラネタリウム」(正答率84.4%)。1923年にドイツ博物館で近代的光学式プラネタリウムが公開されて100年がたち、国内でもさまざまな記念事業が展開された。ニュースにもなったが天文時事問題にアンテナを張っている人も多くなったのだろう。
【問21】雪線(スノーライン)についての説明のうち、誤っているものを選べ。正答「木星型惑星と天王星型惑星を分ける境界である」(正答率78.9%)。
【問37】分子雲についての記述のうち、誤っているものを選べ。正答は「分子雲の主成分は一酸化炭素とアンモニアであり、恒星の組成とは異なる」(正答率74.2%)。さまざまな用語や概念は個々に覚えずに、分子雲から原始星が原始星そして恒星が生まれていく、というストーリー(流れ)を把握していくことが大事である。
【問32】2023年8月23日、インドが月探査機「チャンドラヤーン3号」の着陸機を月面に着陸させることに成功した。この結果、インドは、探査機の月面軟着陸に成功した何番目の国になったか。「4番目」(正答率73.4%)。日本は、2024年1月に5番目の月面着陸を成功させている。
【問35】天体に働く潮汐加速度の分布はどれか。なお、潮汐力を与える天体は図のx軸上の右側に位置しており、矢印の方向と大きさが潮汐加速度の方向と大きさを表す。選択肢および正答は解答速報を参照(正答率72.7%)。潮汐力は案外と扱うのが難しく、2級までの範囲では正確な説明ができない。潮汐力は大きさをもった物体の場所ごとにおける重力の差にすぎないのだが、差=微分的な見方が必要になるためだ。各場所にはたらく重力(ベクトル)から重心にはたらく重力(ベクトル)は作図でも描けるので、実際に描いてみてほしい。
【問27】トランジット法で得られる系外惑星の減光率についての記述のうち、正しいものを選べ。正答は「減光率は系外惑星の半径の2乗に比例する」(正答率71.9%)

正答率が低かった問題は、低かった順に以下が挙げられる。
【問19】1860年代に太陽コロナ中に発見された、輝線を発する物質「コロニウム」の正体を選べ。正答は「鉄」(正答率2.3%)。
【問7】密度が一定の球内の重力の大きさは、球の中心からの距離 r によってどのように変化するか。正答は「r に比例する」(正答率16.4%)。天体現象において重力は基本的な概念で、重力場に関わる問題、とくに球や球殻などの重力場は比較的定番の問題である。いろいろなバリエーションがあるので、過去問なども研究してみてもらえると勉強になるだろう。
【問5】1600年に出現した「はくちょう座新星」の天体種として適切なものを選べ。正答は「高輝度青色変光星」(正答率16.4%)。
【問16】宇宙線(宇宙から飛来する高エネルギーの粒子線)が発見されたのは何年か。正答「1911年」(正答率18.0%)。ヴィクトル・ヘスが行った気球観測で発見された。
【問17】銀河や星雲のように面積をもつ天体の表面輝度についての記述のうち、正しいものを選べ。正答は「星間吸収の影響を無視すれば、距離によらず一定である」(正答率18.8%)。輝度のような放射に関わる概念は一般に難易度が高いが、公式参考書には丁寧に説明してあるので、輝度不変の法則と明るさが距離の2乗で減少することの違いを調べてみてほしい。

第16回天文宇宙検定 講評

具体的な数値などは合格率のところに書いてあるが、年齢別合格率について振り返ってみよう。4級は各年代でおおよそ80%から90%程度であり、年代ごとの違いはあまりなさそうだ。3級と2級は中学・高校レベルということもあって、まだ学校で習っていない10代前後以下よりも、10代前後以上の現役世代の合格率が高くなっているようだ。それぞれ、現役世代での合格率が、3級は80%±10%ぐらい、2級は50%ぐらいで揃っているのも面白い。とくに2級では、リタイア世代がバリバリの現役世代と同じぐらいの合格率を叩き出しているのは、同じリタイア世代としては勇気づけられる。作問者側もリタイア世代が増えてきたが、天文宇宙検定の問題を作成することで、頭が錆び付かずにすんでいる(笑)。いやいや、受験者のみなさんと共に、相変わらず勉強できているのである。
さて1級の合格率だが、今回も1級受験者全体の1.6%と低いものの、前回(0%)、前々回(0.7%)と比べれば、やや高くなった。とはいえ、望むらくは、10%とはいわないまでも、まずは5%程度には上がってほしいと思う。1級攻略法としては、何度か書いたように、天文学だけでなく、大学初年級の数学や物理(微積分と微分方程式と力学)も合わせて勉強するということは重要である。また今回の出題にもあったが、重力(万有引力)に関わる問題など、定番問題を押さえておくことも大事だ。星のHR図や進化など、天文の基本だが2級で学ぶ内容については、その一歩先の範囲を学んでおくと1級に対処できることがあるだろう。逆に、磁場や輻射場、高エネルギー天文学など、2級までの公式テキストではほとんど出てこない概念も、1級問題には出やすい分野だといえる。最後に、今回の問8 プラネタリウムの発明から100年の設問のように、時事問題は出題範囲が限られており山を張りやすい(笑)ので、ここらへんは落とさないようにしてほしい。
なんだか毎度まいど、同じようなことを書いている気がしてきたが、若い人は若い人なりに、現役世代は現役世代なりに、リタイア世代もリタイア世代なりに、みなさん、それなりに楽しんでいただきたいと願う。

2024年4月吉日
天文宇宙検定委員会