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第17回天文宇宙検定 受験者データと講評

〇受験者データ

○点数分布・受験者年齢構成・正答率

各級受験者の点数分布表、受験者の年齢構成表とあわせ、各級の設問について正答率の高かった問題、低かった問題についてふりかえります。

点数分布表の太線は合格点を表します(1級試験70点以上で1級合格、60~69点で準1級合格。2級は70点以上、3・4級は60点以上で合格)。

正答率については、解答速報とあわせてごらんください。


〇4級

■正答率の高かった問題

【問12】公式の星座の数を問う問題(94.4%)。88個の星座は、およそ100年前の1922年に国際天文学連合によって決められた。その中に、ねこ座や北斗七星はふくまれなかった。

【問28】自分の体を使って星の高さを図る方法に関する問題(90.8%)。まっすぐうでをつきだしたときのにぎりこぶし1個分は約10度。他にも指や手のひらで、およその角度がつかめる。覚えておくと人に星や星座の位置を教えるときに便利だ。

【問8】地球からもっとも遠い天体を選ぶ問題(90.6%)。選択肢4つの中でアンドロメダ銀河だけが天の川銀河の外にある天体で、250万光年かなたにある。

【問18】太陽系惑星の直径の大きさ順を問う問題(87.5%)。選択肢の中では、「水星は金星よりも小さい」がゆいいつ正しい。ちなみに、海王星は天王星よりわずかに小さい。

【問4】写真からガリレオ衛星でない天体を選ぶ問題(87.2%)。イダはガリレオ衛星ではなく、火星と木星の公転軌道の間にある小惑星帯に属する小惑星。小惑星でありながらもそのまわりを回る衛星(ダクティル)を持っている。

■正答率の低かった問題

【問33】春のダイヤモンドを形づくる星をたずねる問題(23.6%)。春の大三角は、アークトゥルス、スピカ、デネボラで形づくられる。ここにりょうけん座のコル・カロリを加えて春のダイヤモンドと呼ぶ。夏の大三角、秋の四辺形、冬の大六角(ダイヤモンド)とあわせて覚えておくと、星や星座を探しやすくなるのでおすすめだ。

【問27】ブラックホールの画像を撮った望遠鏡を選ぶ問題(23.6%)。イベント・ホライズン・テレスコープが史上初めてブラックホールの撮影に成功したのは2019年。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が高精細画像を公開したのは2022年。両者を混同してしまったようで、正答率が低かった。

【問13】銀河の写真の中からりょうけん座M51を選ぶ問題(30.8%)。りょうけん座M51は、子持ち銀河と呼ばれる渦巻銀河である。ひしゃくの形をした北斗七星の柄の先っぽあたりにある銀河で、双眼鏡や天体望遠鏡でなら見ることができる天体だ。

【問14】選択肢から双眼鏡で観察するのに向いていない天体を選ぶ問題(33.6%)。土星の環や木星の縞模様を見るには、天体望遠鏡がふさわしい。ちなみに、ガリレオが自作の望遠鏡で土星を見たときには、当時の望遠鏡の性能の低さから、環とはわからずに「土星の耳」と記録したという。

【問19】はくちょう座の星座線のイラストからアルビレオを選ぶ問題(35.6%)。アルビレオは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場するオレンジと青白い星からなる色の対比が美しい二重星。はくちょう座のくちばしの位置にある。肉眼では1つの星に見えるが、双眼鏡で見ると二重星であることがわかる。アルビレオの2つの星は実際には近くにあるのではなく、地球から見たとき同じような方角にあるため近くに見える見かけの二重星だ。


〇3級

■正答率の高かった問題

【問1】選択肢から自ら光っている天体を選ぶ問題(99.5%)。恒星が正答。

【問24】宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでどのように睡眠をとっているかを問う問題(96.5%)。微小重力下では体がふわふわ漂ってしまわない工夫が必要になる。

【問57】星座のβ星が、その星座で何番目に明るいかを問う問題(94.9%)。一番明るい星から順にギリシャ語のアルファベットが付けられているので、2番目が正解だが、付けられた当時の肉眼観測によるものなので、一部例外が存在する。

【問12】日本で虹の色として挙げられる7色を問う問題(92.8%)。日本では7色だが、国や時代によって、その色や数が異なる。日本では太陽を赤色で表現するのが一般的だが、欧米では黄色などを用いるという。人の感覚はさまざまでおもしろい。

【問17】惑星記号が示す惑星名を選ぶ問題(92.8%)。天文符号・惑星記号・星座記号に関する問題は3級の定番問題ともいえる。占星術にくわしい方にはやさしい問題だったかもしれない。海王星の惑星記号は海神ポセイドンが持つ三叉の戟に由来する。

■正答率の低かった問題

【問5】史上初の彗星着陸に成功した探査機を問う問題(9.3%)。着陸したのは、探査機「ロゼッタ」からチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に投下された「フィラエ」。2014年の出来事であるが、ロゼッタが打ち上げられたのは、そのおよそ10年前の2004年。64億㎞もの距離を飛行した。

【問56】火箭(かせん)が発明されたのがおよそ何年前か問う問題(21.7%)。火箭とは戦で火をつけて放たれた矢のことで、中国で発明されたロケットの祖といわれる兵器である。第二次世界大戦後、米ソの宇宙開発戦争を牽引(けんいん)したのもドイツが用いた兵器「V2ロケット」の技術者らであった。ロケットの歴史は戦争と縁が深いのである。

【問3】図に描かれた星座の位置から経過時間を選ぶ問題(28.9%)。北半球の天体は北極星を中心に反時計回りに1時間あたり15度の角度で円を描くように移動するという知識の応用。入試問題などにも出題されることがあるという問題である。

【問45】軌道傾斜角が最も大きい惑星を選ぶ問題(29.1%)。軌道傾斜角という語に戸惑ってしまった方が多かったようだ。惑星の軌道傾斜角とは、地球が太陽の周りを回る軌道をひとつの平面(軌道面)ととらえ、それを基準とした場合に、各惑星の軌道面がどの程度の傾きがあるかを表したものである。多くの方が金星を選んだようだ。金星の自転方向は他の惑星とは逆向きだが、軌道傾斜角は3.4度である。水星の7.0度がもっとも大きい。なお、惑星の軌道傾斜角以外にも、月・衛星の軌道傾斜角、人工衛星の軌道傾斜角、さらに連星の軌道傾斜角などもある。一般には、何かの基準面に対する軌道面の傾きを軌道傾斜角と呼ぶが、軸の傾きで定義することもあるので、それぞれの状況で学んでほしい。

【問51】日没にかかる時間について正しい記述を選ぶ問題(30.5%)。日の出・日の入りの時刻とは、太陽の上辺が地平線(または水平線)に一致する時刻をいう。したがって、日の出の時刻は太陽が出始めた瞬間で、日の入りの時刻は沈み切った瞬間の時刻となる。さて、赤道では太陽は垂直に沈むが、日本のような中緯度自体では太陽は斜めに沈む。そのため、日没の場合、太陽の下辺が地平線に接してから完全に姿を消すまでにかかる時間は、地球上では緯度によって変わる。そして緯度が高い地域ほど時間がかかることになる。


〇2級

■正答率の高かった問題

【問60】地球の歴史上5回あったといわれている種の大量絶滅のうち、年表から恐竜が絶滅したものを選ぶ問題(92.9%)。正解は白亜紀末の約6600万年前。チクシュルーブ・クレーターにその痕跡が残る。小惑星の衝突説は1979年に提唱された。

【問50】地球上の酸素の供給源とその濃度に関する問題(90.8%)。過去には地球誕生から現在に至るまでの大気成分の変遷を問う問題が出題されたこともある定番問題ともいえる設問。

【問7】同程度の大きさの銀河同士が衝突するときに起きる影響について考えられるものを問う問題(88.7%)。銀河の衝突はよく起こるが、星の衝突はめったに起こらない。ちなみに大型銀河が矮小銀河を吸収しても、大型銀河の側はたいして形が乱れない。

【問14】宇宙・地球・人体における元素の存在比の円グラフを選択する問題(87.6%)。人の体を作る元素は、星の誕生と死によってもたらされた元素でできている。天文学者が「われわれは星の子」と言うゆえんである。

【問30】生物の3条件に入らないものを選ぶ問題(87.3%)。ウイルスは、自己複製はするが、自身で代謝をせず、自力で増殖できないため生物には分類されない。

■正答率の低かった問題

【問29】宇宙線の主成分を問う問題(19.5%)。国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士の放射線被ばく軽減のためクルークォータという公衆電話ボックス程の大きさの設備があり、宇宙放射線を約9%減衰することができる。

【問39】軌道傾斜角と軌道周期および概略図から、その軌道の名称を問う問題(29.2%)。国土が高緯度にあるロシアでは、赤道上を周回する静止軌道は利用しづらいためモルニア軌道が考案された。軌道離心率が高く長楕円軌道になる特徴を図から読み取れれば正答に辿り着けるだろう。

【問4】恒星のスペクトルから得られない情報について問う問題(32.7%)。天球上での位置の変化はスペクトルからは得ることができない情報。

【問48】海王星の発見にまつわる天文学者の名前を問う問題(32.9%)。科学的な功績はその発見・発明を一番に公表した者にのみ与えられる。海王星発見者の栄誉に関するルベリエ、アダムス、ガレによる争いは有名である。

【問44】距離と見かけの等級から絶対等級を求める問題(37.3%)。ある距離にある恒星の等級が見かけの等級で、かりに、その恒星を32.6光年の位置に置いた場合の等級が絶対等級となる。したがって、恒星の距離・見かけの等級・絶対等級の間には関係がある。その関係(距離指数と呼ばれる)は、天体の明るさが距離の2乗に反比例すること、1等級の明るさの比が一定で約2.5倍であることなどから導くことができるが、その関係を図示したものが『公式テキスト2級』掲載の図表4-3である。距離指数の関係式には対数関数が出てきて少し難しいが、恒星の距離は天文学の基礎中の基礎なので、少し背伸びして、距離指数というものも調べてみてほしい。


〇1級・準1級

■正答率の高かった問題

【問20】温度が10 Kの分子雲と表面温度が4000 Kの前主系列星がそれぞれ最も明るく輝く波長の組み合わせを選ぶ問題(81.3%)。熱放射(黒体輻射)の基礎的な性質は知っておいてほしい。すなわち、低温の物体は電波や赤外線を、数千度になると可視光を、そして数千万度ぐらいではX線を放射する。またウィーンの変位則から、温度の比率は振動数の比率(あるいは波長の逆比)になることも感覚で覚えてほしい。

【問32】2024年2月に月面着陸に成功したJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」について誤った記述を選ぶ問題(80.4%)。ごく最近の時事問題で、正答率はもっと高いかと思っていたが、ピンポイント着陸やひっくり返ったことなどは有名だったが、XRISM衛星と一緒だったことや世界で何番目かは、案外と知られていなかったのかもしれない。

【問31】物質はないが宇宙項Λのある宇宙モデルの名称を問う問題(78.5%)。具体的な式などは出てこないので、1級参考書を丁寧に読んでいれば、解ける問題にはなっている。ただ正答した人も間違った人も、静止宇宙、ビッグバン宇宙、ド・ジッター宇宙の振る舞いの違いは、もう一度、確認しておいてほしい。

【問16】ある活動銀河の中心核をパーセクスケールに相当する空間分解能で電波観測したところ得られた輝度温度の観測結果の意味するものを選ぶ問題(74.8%)。温度には熱放射の温度以外にもいろいろあり、輝度温度の概念は比較的難しい範疇になるが、予想外に正答率が高かった。たとえば、非接触式電子体温計で測っているのは輝度温度だが、熱放射をしている物体(たとえば人間)の輝度温度は熱放射の温度と等しい。一方、太陽放射を散乱している青空の輝度温度は6000Kぐらいになるが、もちろん実際に空の温度がそんな高温なはずはない。また最近では、部屋の電灯がどんどんLED光源に変わりつつあるが、蛍光灯に比べてLED光源が眩しいのも輝度温度が高いためだろう。

【問8】アインシュタインの業績でないものを選ぶ問題(69.2%)。アインシュタインは自分自身が打ち立てた一般相対性理論でさまざまな予想をし、静止宇宙モデル、重力レンズ現象、重力波などは導いたが、意外なことに、静止した球対称のブラックホール解はシュバルツシルトが導出した。相対性理論から導かれる新しい現象は数多くあり、さすがのアインシュタインもすべてには手が回らなかったということだろう。

■正答率の低かった問題

【問5】日本が実施した宇宙での生命科学実験のうち、水棲生物実験用の装置で使われたことがない生物種を問う問題(10.3%)。さまざまな水棲生物種について実験されているので、たしかに難易度が高い問題だったといえる。

【問37】さまざまな天体現象を、発見順に正しく並べたものを選ぶ問題(14.0%)。天文学における大発見の続いた1960年代の話である。ダークエネルギー(宇宙の加速膨張)や重力波の直接検出そしてブラックホールシャドウの発見が続いた今世紀初頭も、後日、発見の時代と呼ばれるかもしれない。科学の流れは連続的なものなので、科学史の本や科学者の伝記などにも、ときには手を伸ばしてほしい。

【問25】静止した一様星間物質中における点源爆発のセドフ解の圧力、密度、速度の変化を表す3つ図の正しい組み合わせを選ぶ問題(14.0%)。これはセドフ解自体を知らなくても、問題文とグラフの読み取りから、ある程度は推理できる。まず周辺は静止した一様な星間物質なので、遠方では速度が0(縦軸の物理量が0)であるCが速度のグラフになる。圧力と密度の選択は少し難しいが、静止した星間物質中における点源爆発とは、ようは超新星爆発のことなので、爆発でガスが吹き飛んでしまうことを思うと、中心まで何かの物理量があるBでなく、中心で物理量が0になっているAが密度だという推測が正しい答えとなる。

【問18】大文字が2つ使われている星座の略符号の数を問う問題(17.8%)。正答は10個。この問題は内容的には3級に入るかもしれないが、たまには2級や3級の話も振り返っていただきたい。

【問11】質量Mの天体の周りを質量m の天体が、半径a 、角速度ωで円運動しているときの質量m の天体に働く遠心力fと角運動量Lを表す式の組み合わせを選ぶ問題(29.0%)。遠心力はニュートン力学で必ず出てくる式なので、比較的よく知られているだろう。わかりにくいのは角運動量の式だと思うが、回転にかかわる運動量の一種だと考えて、回転に関わるから回転半径と回転方向の運動量と思えば回転速度ωになるので、××ω、となるように考えるといいだろう。


〇第17回天文宇宙検定 講評

天文学に限らず、たいていの学問は積み上げ方式になっている。“楽しみながら学んでもらいたい”天文宇宙検定も、積み上げ方式に関しては例外ではない。4級・3級では、天文学の基礎的な用語や概念、そして主な天体現象が美麗な画像とともに“紹介”してある。その結果、どうしても検定問題は暗記物が中心になってしまうキライはあるが、ここはまだ“紹介”なので、、“紹介”の先に興味を繋いでほしいのだ。たとえば、星座や星の名前は“なぜ”そんな名前や決まりになったのかなど、古代から近代までの天文学の流れや、天体現象は“なぜ”起こるのかなど、宇宙を統べるルールの存在に思いを馳せてほしいわけだ。そして2級テキストで、天文学の基礎知識をベースにして、天体現象の“なぜ”が少しだけ紐解かれてくる。同時に、物理学や数学の概念や手法が出てきて、なにより、数式も少し使われ始める。天文学で使われる数式を読み解くためには、さまざまな学問分野の手助けが必要なためだが、だからこそ、天文学は難しくも面白いのだ。

さて、新しい受験者も増えてきたようで、あらためて数式について、少し述べてみたい。まずは、数式の表現自体が重要なのではなく、重要なのは数式で表されている内容だという点を、あらためて強く述べておきたい。万有引力の法則も言葉で表せば3行にも4行にもなるが、数式だと、いくつかの約束事を決めておけば、1行で簡潔に表現できる。そしてまた計算もとてつもなく楽になる。2級さらに1級になると、どうしても“数式の壁”が現れ、その壁を乗り越えないと進めない部分が出てくるだろう。そんなときは、一度、数式で書かれた内容を、文章で表してみてほしい。たとえば、今回の1級【問11】で出てきた角運動量Lの式maは、“角運動量とは回転方向の運動量のようなもので、質量と回転半径と回転速度を掛けたものになる。ただし、回転速度は回転半径と回転角速度を掛けて表すこともできる”あたりだろうか。後は、質量にm、回転半径にa、そして回転角速度にωの文字を割り当てれば角運動量の数式になる。言葉による表現でも数式による表現でも、表している内容は変わらない(慣れれば数式の方が便利だというだけ)。実は、さらに重要で面白いのは、そのまた先である。天体現象を数式で表せたとして、ではその数式はいったい“何を意味しているのか”という謎だ。だんだん禅問答のようになってきたが、たとえば万有引力の法則がいい例だろう。言葉でも数式でもいいが、万有引力の法則が表されました。では、質量とはなんですか、なぜ距離の2乗に反比例するのですか。ニュートンでさえ、この問いには答えていない問題なので、ますます禅問答になっていきそうだが、そんな謎の階段を少しずつ上っていただきたいと思う。

 しかしながら、翻って見ると、2011年に第1回が実施された天文宇宙検定も、いつの間にか、10数年も続いた<面白>イベントになってきた。そして、3級・4級に立ち戻ると、今回(も?)、3級・4級ともに、最年少受験者は5歳、最高齢受験者は85歳となっている。世の中のイベントで、子供から大人まで参加するものは多いだろうが、5歳から85歳の範囲の人が、“同時に同じ土俵で同じ試験を受けている”というようなものは多くはないだろう。そう思うと、これはある意味すごいことではないだろうか。今後の行く末も楽しみである。

2024年9月吉日
天文宇宙検定委員会