第12回天文宇宙検定 受験者データおよび講評
2022.7.1
2021年11月21日に開催した第12回試験について、合格率・平均点などの受験者データと、検定委員会による講評をアップしました。
諸般の事情により公開が遅れましたことをお詫び申し上げます。
「第12回天文宇宙検定解答速報」を公式HPに再度アップしましたので、併せてご覧ください。(第12回解答速報の公開は終了しました)
第12回天文宇宙検定(2021年11月21日開催)
●最年少受験者
1級・準1級 9歳
2級 6歳
3級 6歳
4級 4歳
●最高齢受験者
1級・準1級 81歳
2級 85歳
3級 88歳
4級 80歳
●受験者男女比率
1級:男性 80.7%、女性 19.3%
(準1級:男性 81.8%、女性 18.2%)
2級:男性 66.8%、女性 33.1%
3級:男性 49.3%、女性 50.6%
4級:男性 54.0%、女性 45.5%
●合格率
1級:4.3%
2級:31.8%
3級:82.0%
4級:88.5%
●最高得点
1級:73点
2級:94点
3級:97点
4級:100点(2名)
●平均点
1級:45.1点
2級:61.4点
3級:71.7点
4級:77.0点
○第12回天文宇宙検定講評
■4級
第12回検定の4級受験者数は過去2番目の多さで、数多くの方々に挑戦いただいた。年齢別にみると、10代以下が受験者の過半数50.1%を占め、例年以上に若年層の受験者が多い回であった。
しかしながら、今回の4級合格率は88.5%と、こちらも過去2番目の高さであった。年齢別に合格率をみると20~80代で90%を超えているのは例年通りの傾向だが、10歳未満で77.0%、10代で87%と、例年に比べて高く、これが合格率が全体の合格率を引き上げた。
得点分布をみると、ピークは80~89点にあり、29点以下が0%であった。受験に備えて高い理解度をもって臨まれた方々が多かったことがうかがえる。最高得点100点は2名であった。
正答率が90%を超えた問題は、40問のうち以下の9問。天体の分類や月の満ち欠けなどの4級試験問題の定番ともいえる問題に対しての対策は十分という方が多く、高い正答率となった。
【問28】天体名とその種類について正しい組み合わせを選ぶ問題(正答率97.1%)、
【問3】天球の図中に示された場所の名称を問う問題(正答率95.1%)
【問19】図の中から望月を選ぶ問題(正答率94.1%)
【問5】季節に見ごろの星座とは何時ごろに見つけやすいものをいうか問う問題(正答率93.9%)
【問1】日本での太陽の見かけの動きの正しいものを選ぶ問題(正答率93.6%)
【問2】月の満ち欠けの順番を問う問題(正答率92.7%)
【問32】星の色から温度の低い順番を問う問題(正答率92.4%)
【問8】夏至の日について正しく説明しているものを選ぶ問題(正答率91.9%)
【問38】地球の自転について問う問題(正答率91.9%)
正答率が低かった問題をみてみると、以下の3問が正答率5割に満たなかった。
【問20】天体望遠鏡に記された数字が表すものを問う問題(正答率35.0%)
【問31】2021年2月に火星着陸したアメリカの探査車の名前を問う問題(正答率35.7%)
【問14】図から星座早見ばんの方角が正しく表記されているものを選ぶ問題(正答率49.4%)
上記の次に正答率が低かったのは【問37】観望会について正しくないものを選ぶ問題(正答率51.3%)であった。星座早見ばんに関する問題は、4級の定番問題なのだが、毎回正答率が低い分野である。星座を探せるスマートフォンアプリの普及によって、星座早見ばんに触れる機会が少なくなっている現状の一端を表しているのかもしれないが、人間の目は暗闇に慣れるのに20分ほど時間がかかるため、明るい液晶画面を見なくてすむ星座早見ばんには利点もある。ぜひ活用してみてほしい。「天体望遠鏡に触れたことがない」という声も多く聞くので、天体観測の体験や観測機器への慣れ親しみが伴わない知識は身に付きにくいのかもしれないというのも印象である。コロナ禍の影響で、科学館などで実施されていた観望会は自粛や規模縮小されることが多いが、この夏はぜひ、天体望遠鏡に触れる機会、天の川を肉眼で見るなどの天体観測の経験をしていただけると、検定試験で身に着けた星座や神話の知識の振り返りになるのではないだろうか。
■3級
今回の3級試験の合格率は82.0%。過去12回の試験で80%を超えたのは4回で、今回は過去2番目に高い合格率となった。4級同様に20代~70代以上の合格率は高くて、80%以上であった。得点ピークは70~79点台で29.5%の方がこのゾーンに属する。この6年ほどは満点が出ていない。今回の最高得点は97点がおひとりいらっしゃる。素晴らしい成果である。4級にくらべると、記述はより詳しく、範囲も広くなり、整理して覚え理解することが必須となるため、10歳以下の若年層では苦戦することも多く、今回も10歳未満の合格率は2.9%にとどまっている。
試験問題全60問のうち、正答率が90%を超えた問題は以下の10問。太陽系惑星の特徴や星座線から星座を特定するなどの定番問題に高い正答率がみられる。
【問52】流星群のもとになる塵を放出する天体を問う問題(正答率98.1%)
【問16】国際宇宙ステーションの日本の実験施設名を問う問題(正答率96.8%)
【問25】天王星・海王星・冥王星の英語名を問う問題(正答率96.2%)
【問10】イラストから古代エジプトの宇宙観を表すものを選ぶ問題(正答率95.9%)
【問37】環のない惑星を選ぶ問題(正答率94.4%)
【問22】天文単位は何を基準にした単位かを問う問題(正答率93.3%)
【問48】人類が探査機を着陸させたことがない天体を選ぶ問題(正答率93.3%)
【問49】地球から見て太陽の前を横切らない天体を選ぶ問題(正答率92.4%)
【問56】写真から太陰とも呼ばれることがある天体を選ぶ問題(正答率92.3%)
【問2】星座線から星座名を選ぶ問題(正答率92.1%)
正答率が低かった問題で全体の正答率が3割に満たない問題は、以下の3問であった。
【問40】2006年打ち上げの日本の赤外線天文衛星の名称を問う問題(正答率12.9%)
【問53】地球から10光年の範囲内にある恒星の個数について問う問題(正答率28.1%)
【問34】星座の略号に関する問題(正答率28.1%)。88個ある星座それぞれにアルファベット3文字で表記される略称があるが、星座名がラテン語由来で略し方が特異であったり、大文字を複数個含むものがあったりする。問34は意地悪な問題であったかもしれない。
上記に続いて正答率が低かった問題は、【問30】4つの1等星のなかで最も明るいものを選ぶ問題(正答率37.0%)であるが、これは『公式テキスト3級』のカバー折り返し部分に、全天で21個ある1等星を明るい順にならべた表からの出題であり、見落としていた方が多かったのかもしれない。1等星の名前は、歌や小説など創作物にも多用されるので、星の知識があれば、より世界観を愉しめる一助となろうかと思う。次に正答率が低かったのは、【問42】天球座標名とその使用目的の組み合わせからふさわしくないものを選ぶ問題(正答率37.6%)。天球座標は一般になじみが薄く、図を見ただけで混乱するという声もあるので、その使用目的を問われるとお手上げという方が多かったようであるが、2級へとステップアップを狙うならば抑えておきたい知見である。次に正答率が低かったのは、【問32】日本人が初めて宇宙に行ったときに乗ったものを選ぶ問題(正答率38.7%)。1990年に当時TBS社員であった秋山豊寛氏が旧ソ連の「ソユーズ」で宇宙に行ったのが最初だ。秋山氏の宇宙から地球に向けての第一声「これ本番ですか?」という迷言と共に40代以上にはよく知られた出来事も、年少者には難しかったようだ。現代ではYoutubeなどでも当時のニュース映像は観られるのでご覧いただければと思う。
■2級
今回の2級受験の受験者数は過去2番目に多かったが、合格率は過去11回平均を少し下回る31.8%であった。ちなみに、直近3回の試験の平均は40%である。過去12回の試験で2級の満点取得者は出ていない。今回の最高得点は94点であった。
平均点は61.4点で、3級・4級の平均点よりも10点近く低くなる傾向は今回も変化がなかった。得点のピークは60~69点でこのゾーンには全体の26.6%が属しており、毎年のことであるが、合格点である70点にあと数点足らずに涙を飲んだ方々は多い。受験者は20代が26.9%で一番多く、次いで10代の16.2%、50代の14.5%が続く。
正答率が90%を超えた問題は、60問のうち以下の3問。
【問33】太陽系天体を太陽から近い順に正しく並んでいるものを選ぶ問題(正答率91.6%)
【問9】国際宇宙ステーションの長期滞在期間に制限がある理由を問う問題(正答率90.2%)
【問14】HR図の「HR」が何を略したものかを問う問題(正答率90.1%)。
次いで、【問46】天体写真について述べた文章からその天体の状態を正しく記述したものを選ぶ問題(89.0%)。【問26】天球での散開星団の分布を正しく示した図を選ぶ問題(87.1%)、【問24】HR図上で分類された恒星のグループの名称を選ぶ問題(87.0%)。いずれも『公式テキスト2級』を熟読しておけば正答に辿り着くことのできる問題である。とはいえ、個々の記述を知識として暗記するのみではなく、全編を俯瞰してとらえることが求められる。例えば、問46では、名前を伏せた天体写真4点について、その大きさ・成り立ちなどから分類してとらえ直すことが求められる。
正答率が3割を切った問題は、以下の5問。
【問42】黄道光が太陽コロナのどの部分と関係しているかを問う問題(正答率26.6%)
【問31】プランク定数の単位を問う問題(正答率24.4%)
【問37】LIGOで検出された重力波の波形データを表す図の横軸の単位を問う問題(正答率23.9%)
【問20】植生反射率と波長の関係を表す図の深い切れ込みの原因を問う問題(正答率22.3%)
【問22】CNOサイクルの模式図から触媒として働く原子核に酸素がいくつあるか問う問題(正答率10.0%)。いずれも当然ながら『公式テキスト2級』からの出題ではあるが、インターネットや関連書籍等から知識を補完すれば、より理解を深めることができるのでお勧めしたい。例えば、問42の黄道光については、『公式テキスト2級』の旧版では、柿本人麻呂が詠んだ歌に登場する「かぎろい」を黄道光ではないかと推察した説を紹介していたが、紙幅の都合で改訂時に残念ながら削除されている。だが、「黄道光」でネット検索をしてみると、その柔らかく不思議な明るさをとらえた写真などを見ることができる。当検定受験を機に、新たな知見へと知識欲をさらに広げてもらえれば幸いである。
■1級・準1級
1級試験は当検定で唯一受験資格がある級で、2級試験を合格することが条件となっている。1級に合格して天文宇宙博士の称号を得るには70点以上をとらなくてはならない。今回も難関をクリアして新たな天文宇宙博士が誕生した。今回の1級合格者を含めても、天文宇宙博士は、この地上にまだ40名しかいない。
第12回の1級得点のピークは40~49点にあって37.9%がこのゾーンに属している。受験者の平均点は45.1点で、最高得点は73点であった。今回も史上初の満点獲得者はあらわれなかった。1級受験者に占める70点以上の合格者は1級受験者の4.3%であった。
1級受験者のうち、60点以上70点未満であった方は、準1級となる。今回の1級試験では、準1級合格者は7.9%で10代で合格された方がいる。
正答率が高かった問題は、以下のとおり。
【問25】月探査で中国が史上初めて成功させたことを問う問題(正答率82.1%)
【問37】星間減光の説明として誤っているものを問う問題(正答率76.4%)
【問38】1012を表すSI接頭語を問う問題(正答率73.6%)
正答率が低かった問題は、以下のとおりである。
【問2】図から離心率0.2の図を選ぶ問題(正答率4.3%)
【問4】望遠鏡を使って初めて天体を見たとされる人物を問う問題(正答率12.9%)
【問26】5つの星のスペクトル図から読み取れることを問う問題(正答率14.3%)
【問40】宮沢賢治作詞の『星めぐりの歌』に登場しない星座を問う問題(正答率15.7%)
【問8】漸近巨星分枝星とはどういう状態の星かを問う問題(正答率17.1%)
【問5】図から北緯35°地点の太陽の位置の季節変化を示した正しい図を選ぶ問題(正答率18.6%)
■総括
2020年から年2回(春・秋)の試験開催となった当検定ですが、第12回試験の講評が諸般の事情により大幅に遅れてしまったことを改めてお詫び申し上げます。次回からは、合格通知の発送後、出来得る限り早い段階でお届けできるよう努めてまいります。
今試験においても、長引くコロナ禍にもかかわらず、たくさんの方々にご参加をいただき、感染予防対策にもご協力をいただきました。あらためて御礼申し上げます。
「宇宙産業」という伸びしろが見込める産業において、我が国がアドバンテージをもっているのは、ひとえに先人たちの努力の賜物でしょう。一方、全国に宇宙が好き、星が好きという方々がたくさんいらっしゃって、もっと知りたい、深く知りたいという情熱をもっておられることも、その下支えとなってきたのではないかと、当検定の運営のなかで日々感じています。今回の受験申込は、コロナ禍にもかかわらず、過去12回で最多のお申込数をいただきました。残念ながら、感染を避けるため、受験を断念された方々もいらっしゃいましたが、いずれコロナ禍が沈静化しました折に、再度の挑戦をお待ちしております。
さて、まず例年の総括にも書いてあることを最初に繰り返させていただくと、本検定のココロは天文や宇宙に関わるあらゆるモノゴトについて徹底的に楽しんでいただくことです。さらに深遠で迂遠なる大目標としては、天文の裾野を広げ、天文人口を増やし、全体に押し上げて、日本を宇宙大国・科学技術立国へ導くことにある・・・というのは今回とってつけた大風呂敷ですが、コロナ禍にもかかわらず、多くの方々が相変わらず関心を寄せてくださることを考えると、無謀な目標でもないような気がしてきました。そのような本検定の目標のため、そして多くの方々の期待に応えるために、公式テキストを2年ごとに改訂する都度、どうしたら説明がわかりやすくなるか(図解にしたりもする)、面白く意外な記述にできるか(おふざけにはならない程度に)、そして2年の間に得られた最先端の知見や発見などをどのように嚙み砕いて組み込むか(同じ分量を減らすのが難儀)、テキストの執筆者は2年ごとに試練にさらされています(もちろん楽しみながら)。また検定問題についても、多くの作問者から寄せられた問題案を取捨吟味し、暗記問題ではあるが基礎的な問題から、ちょっと工夫が必要な応用的問題、図や写真を用いた問題、上級であれば数式を使う問題など、バランスをとりながら問題選定にあたっています(選定委員も勉強になることが多い)。ところで、今回の講評文が遅れたお詫びに、ちょっと試験対策のヒントを書いておきますと、図や写真を使った問題は穴場だと思います。公式テキストは図や写真をできるだけ多用しているが、それでも図や写真の点数は限られており関係する文章量は少ないです(情報量は多いが)。一方で、検定問題では図や写真を用いた問題はある一定の割合で出題されるので、図や写真問題がしっかり解けるようにしておくことをお勧めします(図や写真の含む情報量は多いが映像として覚えることができるので)。相変わらずのコロナ禍で大変な毎日ではありますが、天文宇宙検定が多少なりとも心の清涼剤になればと思います。そしてまた、制作側も受験者の方々も楽しめるよう、一緒に天文宇宙検定を育てていきたいものです。今後ともよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
2022年6月吉日
天文宇宙検定委員会
カテゴリー : その他