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このたびは、第19回天文宇宙検定に全国の会場およびオンラインにてご参加いただき、誠にありがとうございました。受験者の皆様に、天文宇宙検定委員会一同、心より感謝申し上げます。以下に、2025年6月8日開催の第19回天文宇宙検定の試験の受験者データを公開します。なお、データはすべて会場受験者のみの統計であり、オンライン受験者については、「4.オンライン受験者の分析」をご覧ください。また、割合は四捨五入しているため、合計が 100% にならないことがあります。
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1. 検定結果の概要と総評
| 級 | 合格率 | 平均点 | 合格基準 |
| 1級 | 1.0% | 42.5点 | 70点以上 |
| 準1級 | 9.9% | – | 60点以上70点未満 |
| 2級 | 38.7% | 64.0点 | 70点以上 |
| 3級 | 68.6% | 66.2点 | 60点以上 |
| 4級 | 83.4% | 74.5点 | 60点以上 |
● 第18回は合格者0名であった最難関の1級で合格者―天文宇宙博士-が誕生しました。継続的な学習に励まれた努力に心より敬意を表します。4級と3級はほぼ前回同様の高い合格率であり、基礎的な知識を身に着けておられるのを感じます。一方で、例年通り2級の合格率は3級から大きく低下しており、「なぜ」を問う応用力の壁が示されました。
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2. 受験者の年齢構成に見る傾向
受験者の年齢構成(割合)は以下のとおりです。各級とも幅広い世代が天文宇宙への知的好奇心を持って挑戦していることがわかります。
1級 受験者の年齢構成
| 年代 | 割合 | 備考 |
| ~10歳 | 1.0% | |
| 10代 | 12.9% | |
| 20代 | 13.9% | |
| 30代 | 9.9% | |
| 40代 | 7.9% | |
| 50代 | 17.8% | |
| 60代 | 22.8% | 最多層 |
| 70代 | 13.9% | |
| 80歳以上 | 0.0% | |
2級 受験者の年齢構成
| 年代 | 割合 | 備考 |
| ~10歳 | 3.2% | |
| 10代 | 29.4% | 最多層 |
| 20代 | 26.2% | |
| 30代 | 11.0% | |
| 40代 | 8.9% | |
| 50代 | 9.1% | |
| 60代 | 10.4% | |
| 70代 | 1.7% | |
| 80歳以上 | 0.2% | |
3級 受験者の年齢構成
| 年代 | 割合 | 備考 |
| ~10歳 | 4.6% | |
| 10代 | 36.0% | 最多層 |
| 20代 | 18.6% | |
| 30代 | 11.7% | |
| 40代 | 11.5% | |
| 50代 | 10.9% | |
| 60代 | 4.6% | |
| 70代 | 1.7% | |
| 80歳以上 | 0.4% | |
4級 受験者の年齢構成
| 年代 | 割合 | 備考 |
| ~10歳 | 21.9% | |
| 10代 | 36.3% | 最多層 |
| 20代 | 7.2% | |
| 30代 | 7.5% | |
| 40代 | 12.5% | |
| 50代 | 9.7% | |
| 60代 | 4.4% | |
| 70代 | 0.6% | |
| 80歳以上 | 0.0% | |
● 4~2級では10代が最も多い年代となりました。特に4級では~10歳が21.9%を占めるなど、若年層の関心の高さが顕著です。一方、1級の最多層は60代であり、50代以上が合計で54.5%を占めています。専門的な知識の探求が、世代を超えた生涯学習のテーマとなっていることを示しています。
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3. 各級の点数分布と客観的分析
各級の点数分布(割合)は以下の通りです。ご自身の得点帯がどの水準にあるのか、客観的な目安としてご参照ください。
1級:合格点70点以上
| 点数帯 | 割合 | 備考 |
| 0~9 | 0.0% | |
| 10~19 | 0.0% | |
| 20~29 | 15.8% | |
| 30~39 | 26.7% | 最多層 |
| 40~49 | 29.7% | |
| 50~59 | 16.8% | |
| 60~69 | 9.9% | 準1級以上合格点 |
| 70~79 | 0.0% | 1級合格点以上 |
| 80~89 | 1.0% | 1級合格点以上 |
| 90~99 | 0.0% | 1級合格点以上 |
| 100 | 0.0% | 1級合格点以上 |
● 受験者の約56.4%が30~49点に集中し、点数分布が合格点未満に偏りました。準1級の合格点である60点以上の得点帯に到達した受験者は10.9%でした。
2級:合格点70点以上
| 点数帯 | 割合 | 備考 |
| 0~9 | 0.0% | |
| 10~19 | 0.0% | |
| 20~29 | 0.8% | |
| 30~39 | 6.8% | |
| 40~49 | 12.3% | |
| 50~59 | 18.6% | |
| 60~69 | 22.6% | 最多層 |
| 70~79 | 18.0% | 合格点以上 |
| 80~89 | 16.9% | 合格点以上 |
| 90~99 | 3.8% | 合格点以上 |
| 100 | 0.0% | 合格点以上 |
● 最多層は60~69点であり、合格点にあと一歩届かなかった層が全体の約22.6%を占めました。合格者(70点以上)は全体の38.7%でした。
3級:合格点60点以上
| 点数帯 | 割合 | 備考 |
| 0~9 | 0.0% | |
| 10~19 | 0.0% | |
| 20~29 | 0.4% | |
| 30~39 | 3.3% | |
| 40~49 | 9.8% | |
| 50~59 | 18.0% | |
| 60~69 | 26.6% | 最多層 / 合格点以上 |
| 70~79 | 25.7% | 合格点以上 |
| 80~89 | 12.3% | 合格点以上 |
| 90~99 | 4.0% | 合格点以上 |
| 100 | 0.0% | 合格点以上 |
● 最多層の60~69点は合格点(60点)をわずかに超えた層であり、この層と70~79点の層で受験者の約52.3%を占めました。
4級:合格点60点以上
| 点数帯 | 割合 | 備考 |
| 0~9 | 0.0% | |
| 10~19 | 0.0% | |
| 20~29 | 0.3% | |
| 30~39 | 0.6% | |
| 40~49 | 5.0% | |
| 50~59 | 10.6% | |
| 60~69 | 15.6% | 合格点以上 |
| 70~79 | 29.7% | 最多層 / 合格点以上 |
| 80~89 | 21.6% | 合格点以上 |
| 90~99 | 15.3% | 合格点以上 |
| 100 | 1.3% | 合格点以上 |
● 最多層は70~79点でした。受験者の約83.5%が合格点(60点)以上の得点帯に分布しており、入門級として多くの方が天文学の基礎知識をしっかりと習得されていることが示されました。
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4. オンライン受験者の分析
オンライン受験者の成績は、会場受験者を含む全体成績と比較して以下の傾向が見られました。
| 級 | 合格率(オンライン) | 平均点(オンライン) | 合格率(会場受験) | 平均点(会場受験) |
| 2級 | 34.6% | 63.1点 | 38.7% | 64.0点 |
| 3級 | 73.6% | 69.0点 | 68.6% | 66.2点 |
| 4級 | 79.4% | 74.2点 | 83.4% | 74.5点 |
● 3級においてのみ、オンライン受験者の成績が会場受験を上回る結果となりました。4級と2級でオンライン受験者の成績が会場受験をわずかに下回った要因の一つとして、オンライン化によってこれまで会場にアクセスできなかった幅広い学習経験や年齢層の方々の受験機会が創出された結果と見ています。
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5.正答率の低かった問題
各級の出題問題のうち正答率の低かった設問3問は以下のとおりでした。
公式ホームページで公開している試験問題・正答・解説を併せてご確認ください。
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1級 正答率の低かった問題
🥇 1位:問17 (正答率 5.9%)
太陽の周りを回る塵が受けるポインティング-ロバートソン効果とは何か。
🥈 2位:問15 (正答率 13.9%)
地球には鉄が豊富に存在するが、宇宙誕生時、鉄は存在していなかった。鉄の供給源となる天体、または天体現象として最も主要なものを選べ。
🥉 3位:問28 (正答率 15.8%)
円形(球状)に広がる打ち上げ花火が丸い形を保つ理由を選べ。
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2級 正答率の低かった問題
🥇 1位:問51 (正答率 11.8%)
次の画像の光る点の多くはULXだが、ULXの正体は何と考えられているか。
🥈 2位:問20 (正答率 26.6%)
植生の反射率には、図中の矢印で示した1.5μm付近や2μm付近などで、反射率が低くなった深い切れ込みがある。その主な原因は何か。
🥉 3位:問50 (正答率 27.3%)
生物とウイルスのもつ共通の性質に関する説明文として正しいものはどれか。
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3級 正答率の低かった問題
🥇 同率1位:問45 (正答率 24.3%)
国際探査計画「ベピコロンボ」で、2018年に打ち上げられた2機の探査機はどの惑星に到達予定か。
🥇 同率1位:問48 (正答率 24.3%)
次の中で、X線天文観測衛星はどれか。
🥉 3位:問18 (正答率 24.7%)
次のうち、現在使われている全天88星座にないものはどれか。
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4級 正答率の低かった問題
🥇 1位:問29 (正答率 28.1%)
1997年に撮影された次の彗星の名前はどれか。
🥈 2位:問1 (正答率 29.4%)
宇宙人へのメッセージとして、男女の絵がえがかれた金属プレートをつけて、今も宇宙を旅している探査機はどれか。
🥉 3位:問27 (正答率 31.3%)
つぎはある銀河の説明である。どの銀河のことを言っているか。正しいものを選べ。
・おとめ座にある ・非常に巨大な楕円銀河である ・人類が中心部の超巨大ブラックホールの撮影に成功している
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6. 講評と今後の学びに向けて
このたびは、第19回天文宇宙検定にご参加いただき、誠にありがとうございました 。今回も皆様の天文宇宙への深い情熱と知的好奇心が、世代を超えて、そして会場・オンラインの枠を超えて、広がり続けていることを実感させていただきました 。
さらなる学びを進めるうえでは、天体現象の「なぜ」を、物理的な概念や論理的な思考によって深く理解することが、次のステップへ進む鍵となります。基礎的な法則の奥深さや、それに隠された「謎」を追求することこそが、天文学の最も面白い部分です 。
今後の学習対策として、まずは公式テキストを用語だけでなく関連する背景知識や応用例まで深く読み込むことが、得点アップに繋がる確かな土台となります。さらに、最新の発見やミッションに関する出題も多く見られますので、公式テキストで基礎を固めつつ、国内外の専門ニュースや科学系ウェブサイトなど、広くネット情報に耳目を開く姿勢が、フロンティアの知識を掴むための力となるでしょう。
天文宇宙検定委員会は、本検定が、皆様の知的好奇心に火を灯し、宇宙の神秘を楽しみ、生涯にわたる、尽きることのない探求へと繋がるきっかけとなることを心から願っております。
これからも、皆様が宇宙という壮大なテーマを通じて、広く深く学びを継続されることを心より応援いたします。次回の検定においても、皆様の知的好奇心に満ちた挑戦をお待ちしております 。
天文宇宙検定委員会
第19回試験問題について、ご意見・ご質問を頂戴しまして、ありがとうございます。
以下のとおり、ご質問へご回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■第19回・3級・問43
【設問】
白夜(びゃくや)と反対に太陽が地平線上に出てこない日を何と呼(よ)ぶか。
① 不夜(ふ や)
② 暗夜(あ ん や)
③ 闇夜(や み よ)
④ 極夜(きょくや)
【正答】
④ 極夜(きょくや)
【解説】
地球の極地域(きょくちいき)で、夜になっても太陽が地平線の下に沈(しず)まない、もしくは沈
んでも薄明(はくめい)が続く日を白夜(びゃくや)と呼(よ)ぶ。逆(ぎゃく)に、太陽が地平線
の上に出てこない日は極夜(きょくや)と呼ぶ。不夜(ふ や)は一晩(ひとばん)中明かりが灯(
とも)って街(まち)が賑(にぎ)わっている不夜城(ふ や じ ょ う)などで使われる。暗夜(あ ん
や)も単独(たんどく)ではなく暗夜行路(あ ん や こ う ろ)などで使われる。月のない暗い夜が闇夜
(や み よ)である。
【質問】
問題の選択肢として「④極夜(きょくや)」とされている一方で、今回の検定の出題範囲とされている
『天文宇宙検定公式テキスト3級2023~2024年版』(38ページ)では、極夜のふりがなが「ごくや」と
されています。大人を対象とした試験では特段の問題はないと思いますが、年齢層の低い方も参加され
る試験においては、ふりがなの違いは大きな影響が出るおそれがあるものと考えます。今回は正解が
「④極夜(きょくや)」になっていますが、選択肢として適切だったのでしょうか?
【回答】
『天文宇宙検定公式テキスト3級2023~2024年版』において、極夜(きょくや)とすべきところを極夜
(ごくや)と、ふりがなに誤植がありました。深くお詫び申し上げます。
本問は、全員正解として採点いたします。
3級試験は、中学生以上を受験対象と想定しておりますが、漢字のフリガナを正誤の判断基準とする年少
受験者が、一定数いらっしゃいますので、配慮の必要性があると判断いたしました。
■19回・2級・問50
【設問】
生物とウイルスのもつ共通の性質に関する説明文として正しいものはどれか。
【選択肢】
① 外界と境界によって隔たれた構成単位をもつ
② 核酸をもち自己複製を行うことができる
③ ミトコンドリアをもちエネルギーの産生を行うことができる
④ 自分自身で代謝を行うことができる
【正答】
②
【解説】
核酸とそれを包むタンパク質の殻からなるウイルスは、細胞のような構成単位はなく、ミトコンドリア
のような細胞小器官ももたず、自分自身で代謝をしない。一方で、核酸をもち、自己複製ができる生物
特有の性質をもっている。
【質問】
第50問の生物とウイルスの共通点に関する問題で、解答速報では ②核酸をもち自己複製を行うことが
できる が正答となっていましたが、ウイルスは宿主に寄生することで増殖するので単独での増殖、自
己複製はできないのではないかと思います。
生物の細胞とは構造が異なりますが、ウイルスにも外界と隔てる膜のような構造は存在しているので
①外界と境界によって隔てられた構成単位をもつ が正答に近いのではないかと思うのですが、いかが
でしょうか。
【回答】
ご指摘ありがとうございます。
この問題は2級テキストの記述通りの設問ですが、本件に関して、いままでではじめての鋭いご指摘で
した。ウイルスの定義は難しいのですが、現在の一般的な考えとしては、ウイルスは核酸とタンパク質
のみからなっており、細胞膜のような構成構造はないとされています。
「複製を行うことができる が正答となっていましたが、ウイルスは宿主に寄生することで増殖するの
で 単独での増殖、自己複製はできないのではないかと思います。」ここも鋭いご指摘です。ご指摘のよう
に、ウイルスは“単独での増殖”はできません。しかしながら、寄生して核酸を宿主に入れることで、自分
自身の複製(自己複製)を行います。自己増殖・自己複製はしばしばひとかたまりで出てきますが、
ウイルスの場合はこれらが切り離されていて、設問やテキストでも、後者の自己複製のみが、取り上げ
られているものです。
以上の点から、この問題については、テキスト通りを正答とさせていただきますが、本公式テキストに
せよ、学校の教科書にせよ、テキストが常に正しいとは限りません。今後も疑問など生じたら、検定試
験時以外でも、いつでも質問をお寄せください。
■第19回・1級・問3
【設問】
3軌道長半径a、離心率eの惑星の運動を考える。図のように、惑星が近日点Aに来たときの公転角速度を
ω_1、短軸上の点Bに来たときの公転角速度をω_2とするとき、ω_2/ω_1はどのように表されるか。なお、
Sは太陽、Oは楕円の中心とする。
【選択肢】
【正答】
③
【解説】
ケプラーの第2法則より、角運動量が保存する。惑星の質量をm、太陽からの距離をr、角速度をωとする
と、mr2ω=一定となる。ここで、近日点Aでは、r=a(1-e)、短軸上のB点ではr=aとなる。したがっ
て、ケプラーの第2法則より、 ma2(1-e)2ω_1=ma2ω_2の関係が成り立つ。これから ω_2/ω_1=(1-e)2
となり、③が正答となる。なお、楕円の2つの焦点をF(これは太陽Sの位置となる)、F´とすると、FB=F
´Bである。長半径aの楕円は2つの焦点から距離の和が2aで一定となる点の軌跡で表されるので、FB+F´B
=2aとなるから、FB=SB=aとなる。
【質問】
次の点が気になりましたので質問します。
問題3の図の公転角速度ωのベクトル表示についてですが、角速度ではなく、接線速度ベクトル表示では
ないでしょうか。(うかつにも私は速度ベクトル表示と勘違いして1/2(rv)=一定という「面速度一
定」の公式を適用して間違えてしまったのですが)本来角運動量保存則としてはL=r×p(ベクトル表
示)=r×mv(直交する場合)=rmrω=mr²ωと表示されますので、角速度は図面に垂直な方向に表
示されるべきではないでしょうか。
誤解を招きやすい図示であり、各速度ベクトル表示としては間違いではないかと思うのですがいかがで
しょうか。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
図の楕円に接するベクトルは、その場所での速度ベクトルです。つまり、惑星の運動方向を示している
にすぎません。速度ベクトルの付近に角速度ωを図の中に書き込んでいますが、ωはベクトル表記(太文
字)にはしておりませんし、問題文で「角速度ω」と明記しています。つまり、この図のωはスカラー
(大きさ)を表しています。図の速度ベクトルを角速度ベクトルと誤解されたということですが、そも
そも、速度と角速度の違いは、1級レベルでは正しく把握してほしい部分ですので、正答を含め、現行
のままで処理させていただきます。なお、角速度ベクトルは、おっしゃる通り、図に対して垂直上面を
向いておりますが、その場合はωも太文字のベクトル表記になります。
■第19回・1級・問32
【設問】
太陽以外の天体から飛来するX線を発見したのは誰か。
【選択肢】
① ブルーノ・ロッシ
② リカルド・ジャコーニ
③ マーテン・シュミット
④ アーノ・ペンジアス
【正答】
①
【解説】
太陽からのX線は1949年に検出されていたが、他の天体は遠いのでX線では観測できないと思われてい
た。ロッシは小さなガイガー計数管をロケットに載せて打ち上げ、1962年、はじめて太陽以外からの宇
宙X線を検出した。ジャコーニはX線天文学を発展させた立役者で、2002年のノーベル物理学賞を受賞し
た。シュミットはクェーサーの発見者、ペンジアスは3K宇宙背景輻射の発見者である。
【質問】
件名の通り、今回の1級32問についてお伺いしたい点がございます。
解答速報では、①のブルーノ・ロッシが正解となっており、解説でも1962年、初めて太陽以外からの宇
宙X線を検出した、とありますが、これに該当すると思われるブルーノ・ロッシの1962年の論文、
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.9.439
には②のリカルド・ジャコーニも名前が出ております。したがって②も正解なのではないでしょうか?
【回答】
ご指摘ありがとうございます。
宇宙X線観測の研究全体の主導者はロッシで、天文学史的に、宇宙X線の発見者はロッシとされていま
す。設問もその意図でしたが、明瞭ではありませんでした。
またご指摘のように、1962年の最初の論文には、ジャコーニも入っており、選択肢には紛れがありま
した。以上の点から、本問題については、全員正解とさせていただきます。
○第18回 天文宇宙検定受験者データ
※公開数値は、すべて会場受験とオンライン受験を合算したもの。
○第18回 点数分布・受験者年齢構成・正答率
各級受験者の点数分布表、受験者の年齢構成表とあわせ、各級の設問について正答率の高かった問題、低かった問題についてみてみよう。なお点数分布の太線は合格点を表す(1級試験60点以上で準1級合格、70点以上で1級合格となる)。
〇4級
■正答率の高かった問題
【問31】太陽表面にみられる黒点の説明のうち正しいものを選ぶ問題(96.2%)。「まわりよりも温度が低いため暗く見えている」が正答。太陽表面が約6000℃であるのに対して、黒点は約4000℃。現れる位置や形、数が決まっているわけではない。【問15 】探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」の天体としての種類を問う問題(95.1%)。正答は「小惑星」。その大きさや形はさまざまで、火星の公転軌道と木星の公転軌道の間には、数百万個を超える小惑星があり、小惑星帯と呼ばれている。
【問29】日本における午前10時ごろの太陽の位置を図から選ぶ問題(94.8%)。東京(北緯36度)の場合、1年で一番昼が長い夏至(6月21日ごろ)には、太陽の正午の高さが1年で一番高くなる。
■正答率の低かった問題
【問17】現在進行中のアルテミス計画のミッションについて問う問題(21.2%)。ミッションを正しく3つの段階にわけたものを選ぶ問題。現在はミッションⅡである月周辺まで4人の宇宙飛行士の飛行が計画されている。【問22】太陽系を脱出した探査機が他の太陽系の中を通過する確率を問う問題(27.8%)。探査機「ボイジャー」が他の恒星を中心とする直径1光年の範囲を通過する可能性は100億~1000億年に1度ほどと考えられている。
【問21】双眼鏡本体に書かれている数字の意味を問う問題(42.6%)。設問では、10×42と書かれている写真が添えられていた。これは、双眼鏡の倍率とレンズの直径を示すもので、本問の場合だと、倍率10倍で、レンズ口径が42㎜であることを示す。
〇3級
■正答率の高かった問題
【問9】古代中国での主要な五惑星に含まれない惑星を選ぶ問題(97.8%)。海王星は理論的予測に基づいて1846年に発見された惑星で、五惑星には含まれていない。海王星の発見については国際的な先取権論争が生じたことでも有名である。【問1】古代ギリシャ語で月を表す言葉を選ぶ問題(89.8%)。ギリシャ神話の月の女神の名前「セレーネ」が正解。ギリシャ神話については、主に4級で取り扱うが、天文学とは関わりが深い。【問16】国際宇宙ステーション(ISS)では、1日に平均何回、日の出を迎えるかを問う問題(89.8%)。ISSは約90分で地球を一周していることから約16回とわかる。フルマラソンの距離を5秒で完走してしまう速度とも表現できる。
■正答率の低かった問題
【問32】地球を周回して、地球以外の天体の観測を行った人工衛星を選ぶ問題(22.7%)。正解は、約10年にわたって高度550㎞からブラックホールなどを観測した「すざく」。
【問26】地球の軌道面に準拠した天球座標を選ぶ問題(27.8%)。さまざまな座標があって混乱するが、それぞれの使用目的と座標名を関連付けて覚えよう。【問45】平均の密度が最も小さい惑星を問う問題(28.1%)。選択肢の中には太陽系で最も密度が低いことで知られる土星はなく、岩石惑星のみから選ぶ問題であったことが、低い正答率であった要因と思われる。正解は火星。
〇2級
■正答率の高かった問題
【問11】ビッグバン以前に宇宙が急激に膨張した様子を表す語を問う問題(94.1%)。経済用語を転用した「インフレーション」が正解。アラン・グースが最初に用いたといわれる。【問36】高温プラズマ状態であった宇宙が、膨張に伴い冷えて、光が長距離を直進できるようになったことをなんというか問う問題。正答は「宇宙の晴れ上がり」(91.9%)。ビッグバンから約38万年後に起こった。ビッグバンから現在に至る宇宙の歴史について、主な出来事が起きた順番やその特性を問う問題は2級の定番問題である。【問20】系外惑星を見つけるための手法でないものを選ぶ問題(87.3%)。サンプルリターン法は、日本の探査機「はやぶさ」で馴染みがあるためか正答率が高かった。
■正答率の低かった問題
【問48】均時差に関する説明文の穴埋め問題(15.3%)。テキストでは章の中扉に写真付きで解説が掲載されている。グラビアページからの出題も多いので注意。【問23】ケプラーの法則を用いて、水星の軌道離心率と軌道長半径から、近日点と遠日点の太陽-彗星間の距離を求める計算問題(18.9%)。ケプラーの法則に関する問題も、頻出問題ではあるが、毎回正答率が低い。数式をうまく活用できるようにしておこう。【問57】局部銀河群に属し、地球から280万光年にある銀河を問う問題(19.9%)。正解はM33(さんかく座銀河)。天の川銀河、アンドロメダ銀河とともに局部銀河群を形成する主要な銀河のひとつ。
〇1級・準1級
■正答率の高かった問題
【問38】太陽表層の温度と密度分布を表すグラフ中に示された点の領域名を選ぶ問題(83.9%)。これは類題がときどき出題される定番問題なので、90%はほしいところだ。【問33】ドップラー法によって得られる情報として正しいものを選ぶ問題(83.0%)。ドップラー効果は天体の運動を検出するための基本的な観測方法だ。【問19】選択肢の数式から、近日点における公転速度を表す式を選ぶ問題(66.1%)。数式の出題としては、正答率が高かった。
■正答率の低かった問題
【問5】月および惑星の質量と半径の関係を表した理論曲線において、読み取れるものを選ぶ問題(2.7%)。地球のような岩石惑星は、重力作用で球状にはなっているが、質量が変わっても密度はあまり変化しない。したがって、理論曲線の左側のように、質量は半径の3乗に比例して増加する。これは身の回りの固体物質と同じ性質で、固体物質を結び付けているのが静電エネルギーであるためだ。
【問1】超大質量ブラックホール同士の合体から生じる重力波の検出が可能な観測方法について問う問題(6.3%)。最先端の話題の一つであったが、重力波については、テキストなどでもあまり学ぶ機会がないので難易度が高かったかもしれない。
【問15】ブラックホール時空を表現した座標系の名称を選ぶ問題(11.6%)。このタイプの問題はおそらくはじめてで難易度も高かったようだ。曲がった時空間であるブラックホール4次元時空(実際には2次元に落とした時空)を表す方法は数多く考案されている。このような機会にあまり見慣れない時空表現に触れてもらいたい。
〇第18回天文宇宙検定 講評
まず今回の検定のグッドニュースとバッドニュースから簡単に述べたい。
バッドニュースとしては、今回の試験では残念ながら1級合格者が0名であった。これは当検定試験において2回目のことで、前回は第15回試験(2023年5月開催)で1級合格者が出ていない。他の級と同じく1級の試験も毎回同じぐらいのレベルにしているつもりだが、難易度は多少は変動するし、そのときどきでの問題と受験者の相性のよしあしもあるだろう。あと一歩という方はおられたので、懲りずに挑戦を続けていただきたい。
またグッドニュースとしては、今回、当検定では初めて、オンライン受験を導入した。会場に赴くことが難しい受験者の利便性を考えてのことである。さらに当検定の趣旨は楽しみながら天文学を学んでいただくことであり、その学びの成果を自分で確認してもらうことなので、カンニング等は起きないだろう(無意味だろう)と判断したためだ。さて、フタを開けてみると、会場受験者とオンライン受験者の平均点を比較すると、その差はほとんど認められなかった。みなさん、カンニングなどせず、誠実に自分と勝負されたようである。唯一、4級の合格率についてのみ、オンライン受験者の合格率の方が5%ほど高かった。これはオンライン受験資格を中学生以上としたことにより、年少者が受験していないことが影響したと思われる。オンライン導入に際しては、小学生のオンライン受験を希望する声が多く寄せられたので、次回(第19回)から、小学生のオンライン受験を許可することとした(詳しくは公式ホームページ参照)。
さて、毎回、講評の前半では、各級で、正答率の高かった問題と低かった問題について、簡単に紹介している。今回は、問題の正答率について、少し考察・議論してみたい。
まずは正答率の高かった問題の正答率をみてみよう。4級から2級については、正答率の高かった問題の正答率はおおむね90%以上で、100%に近い場合もあった。また基礎的な問題や定番問題では正答率が高くなる。この傾向は今回に限らず、従来もだいたい同じだ。4級から2級については、出題範囲がテキストに限られているので、テキストをきちんと勉強すれば、その成果がきちんと出るということだろう。ただし、出題範囲が限られていない1級では、さすがに正答率が高いものでも80%ぐらいだ。論理的に考えて正答に辿り着ける問題も少なくないので、知らない内容の問題でも、論理的に正答を推測できないか、時間の許す限り考えてみてほしい。
つぎに正答率の低かった問題の正答率をみてみよう。4級から2級については、正答率の低かった問題の正答率は20%から30%ぐらいが多い(今回の2級は少し低いが)。従来も同様な傾向がある。単純に考えれば、問題の答えがわからなかったのだと思われる。すなわち、4択問題なので、ランダムに回答を選べば、正答率の期待値は25%になるわけだ。テキストは決まっているので、苦手な分野(章)もしっかり読み込んでもらえば、確実に、これらの問題の正答率は上がるだろう。さらに、問題はわからなくても、正答(あるいは正答でない選択肢)の予想がつくこともあるので、下位の級の復習なども含め、幅広く勉強することを勧めたい。ただし、1級では、正答率が低いものは10%程度しかなくて、ランダムに選択した場合より明らかに低いように思われる。1級受験者はさすがにランダムに回答を選んでいるわけでないようだが、逆に、考えすぎてしまうのだろうか。理由ははっきりしないが、この数年の正答率を眺めて、一番、興味深かった現象である。
現代の天文学は文字通り日進月歩であり、2025年6月頃に出版予定の公式テキスト2025年-2026年版でも、新しい内容が盛り込まれている。これからも楽しみながら学び続けてほしい。
2025年4月吉日
天文宇宙検定委員会
第18回試験問題へのご質問に対する回答
第18回試験問題について、ご意見・ご質問を頂戴しまして、ありがとうございます。
以下のとおり、ご質問へご回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■2級 問1
【問題】
ブラックホールの「事象の地平面」はどのようになっていると考えられるか。
① 弾力のあるゴムの膜のようになっている
② 液体の表面のような状態になっている
③ 周囲と特に変わらない
④ 固い地面のようになっている
【正答】
③
【解説】
ブラックホールは、光が脱出できない、すなわち脱出速度が光速を超える重力となる「事象の地平面」の内部をいうが、
事象の地平面は空間における境界面であって、物質的な境目ではない。
【質問】
以下のように考えられると思いますが、如何でしょうか?
提示の正答と悩みに悩んだ末、①を回答としました。
「① 弾力のあるゴムの膜のようになっている」というのは、
ブラックホールが周囲の時空をどのように歪めるかを比喩的に表現したものと考えた。
ブラックホールの強大な重力により、時空がゴム膜のように「曲がる」と考えられる。
特に事象の地平面では、この歪みが無限大に近づくため、
観測者にとって脱出不可能な境界として描かれる。
この比喩は一般相対性理論で説明される現象と一致している。
「③ 周囲と特に変わらない」は誤り。
事象の地平面は、周囲の時空とは大きく異なる。
ここでは時空の歪みが極端になり、他の場所とは全く異なる重力場が形成される。
結論:ブラックホールの事象の地平面は、「弾力のあるゴムの膜のようになっている」と考えるのが最も適切。
この比喩は、重力が時空をどのように歪めるかを理解するための視覚的な説明として広く使われている。
よって①が正解。
如何でしょうか。教科書と模範回答から、お示しの正答も分かりはするのですが。
ご教示ください。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
>「③ 周囲と特に変わらない」は誤り。
>事象の地平面は、周囲の時空とは大きく異なる。
>ここでは時空の歪みが極端になり、他の場所とは全く異なる重力場が形成される。
ここを大きく勘違いされているように思います。
ブラックホール(BH)の事象の地平面は、数学的には座標特異点に近いものです。
たとえば、地球表面の座標を経度・緯度で表したとき、
北極点・南極点は、すべての経線が集中する特異座標ですが、
球面上で考えた時に、北極点・南極点は、他の地表面と変わりません。
BHの事象の地平面も、“シュバルツシルト座標”というもので表すと特異性がありますが、
クルスカル座標など他の座標系で表せば、とくに特異性は現れません。
2級テキストではBH時空を表す種々の座標系まで踏み込めませんので、
BHの「事象の地平面」は周囲と特に変わらない、という事実のみ記載しています。
ちなみに、BH中心の特異点においては、
>ここでは時空の歪みが極端になり、他の場所とは全く異なる重力場が形成される。
上記のとおりです。
■2級 問35
【問題】
図は、太陽の2倍の質量をもつ恒星の、主系列星から赤色巨星に進化する道筋をHR図上に描いたものである。
Bの位置に進化したときの半径は、Aの位置にいたときのおよそ何倍になっているか。
① 10倍
② 25倍
③ 50倍
④ 100倍
【正答】
②
【解説】
AとBの位置での光度と半径、表面温度をそれぞれLA、RA、TA、LB、RB、TBとすると、
ステファン・ボルツマンの法則から、
LA=4πσRA2TA4、LB=4πσRB2TB4
が成り立つので、
LB/LA=(RB/RA)2・(TB/TA)4
と表せる。ここでσはステファン・ボルツマン定数である。
これから、
RB/RA=√(LB/LA)・(TA/TB)2
となる。図から、Aの絶対等級はおよそ2等級、Bの絶対等級は-2等級で、およそ4等級の等級差となる。
5等級で明るさは100倍違うので、4等級ではそのおよそ2.5分の1となり、およそ40倍違うことになる。
したがって、LB/LA=40となる。
また、TA=8000 K、TB=4000 Kなので、
RB/RA=√40×(8000×4000)2
=2√10×22~2×3×4=24
となり、最も近い値である②が正答となる。
【質問】
2級問35の解答解説について質問があります。
TA=8000 Kとなっていますが,9000 Kの間違いではないでしょうか。
また,そのあとの数式は
√40×(9000/4000)2≃32
ではないでしょうか。
この場合,確かに25倍が最も近いですが,迷った結果,50倍を選んだ友人がいます。
【回答】
この度はお問合せいただきありがとうございます。
ご指摘いただいたとおり、2級問35につきまして、
解答速報の解説に間違いがございました。
お詫びして訂正いたします。
誤:
また、TA=8000 K、TB=4000 Kなので、
RB/RA=√40×(8000×4000)2
=2√10×22~2×3×4=24
正:
また、TA=9000 K、TB=4000 Kなので、
RB/RA=√40×(9000/4000)2
=2√10×92/42~2×3×81/16~30
なお、選択肢の値が不適切であり、②30倍、③60倍とすべきでした。
そのため、当該問題については選択肢②と③を正答といたします。
この度は貴重なご意見をいただき、まことにありがとうございました。
〇受験者データ
○点数分布・受験者年齢構成・正答率
各級受験者の点数分布表、受験者の年齢構成表とあわせ、各級の設問について正答率の高かった問題、低かった問題についてふりかえります。
点数分布表の太線は合格点を表します(1級試験70点以上で1級合格、60~69点で準1級合格。2級は70点以上、3・4級は60点以上で合格)。
正答率については、解答速報とあわせてごらんください。
〇4級
■正答率の高かった問題
【問12】公式の星座の数を問う問題(94.4%)。88個の星座は、およそ100年前の1922年に国際天文学連合によって決められた。その中に、ねこ座や北斗七星はふくまれなかった。
【問28】自分の体を使って星の高さを図る方法に関する問題(90.8%)。まっすぐうでをつきだしたときのにぎりこぶし1個分は約10度。他にも指や手のひらで、およその角度がつかめる。覚えておくと人に星や星座の位置を教えるときに便利だ。
【問8】地球からもっとも遠い天体を選ぶ問題(90.6%)。選択肢4つの中でアンドロメダ銀河だけが天の川銀河の外にある天体で、250万光年かなたにある。
【問18】太陽系惑星の直径の大きさ順を問う問題(87.5%)。選択肢の中では、「水星は金星よりも小さい」がゆいいつ正しい。ちなみに、海王星は天王星よりわずかに小さい。
【問4】写真からガリレオ衛星でない天体を選ぶ問題(87.2%)。イダはガリレオ衛星ではなく、火星と木星の公転軌道の間にある小惑星帯に属する小惑星。小惑星でありながらもそのまわりを回る衛星(ダクティル)を持っている。
■正答率の低かった問題
【問33】春のダイヤモンドを形づくる星をたずねる問題(23.6%)。春の大三角は、アークトゥルス、スピカ、デネボラで形づくられる。ここにりょうけん座のコル・カロリを加えて春のダイヤモンドと呼ぶ。夏の大三角、秋の四辺形、冬の大六角(ダイヤモンド)とあわせて覚えておくと、星や星座を探しやすくなるのでおすすめだ。
【問27】ブラックホールの画像を撮った望遠鏡を選ぶ問題(23.6%)。イベント・ホライズン・テレスコープが史上初めてブラックホールの撮影に成功したのは2019年。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が高精細画像を公開したのは2022年。両者を混同してしまったようで、正答率が低かった。
【問13】銀河の写真の中からりょうけん座M51を選ぶ問題(30.8%)。りょうけん座M51は、子持ち銀河と呼ばれる渦巻銀河である。ひしゃくの形をした北斗七星の柄の先っぽあたりにある銀河で、双眼鏡や天体望遠鏡でなら見ることができる天体だ。
【問14】選択肢から双眼鏡で観察するのに向いていない天体を選ぶ問題(33.6%)。土星の環や木星の縞模様を見るには、天体望遠鏡がふさわしい。ちなみに、ガリレオが自作の望遠鏡で土星を見たときには、当時の望遠鏡の性能の低さから、環とはわからずに「土星の耳」と記録したという。
【問19】はくちょう座の星座線のイラストからアルビレオを選ぶ問題(35.6%)。アルビレオは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場するオレンジと青白い星からなる色の対比が美しい二重星。はくちょう座のくちばしの位置にある。肉眼では1つの星に見えるが、双眼鏡で見ると二重星であることがわかる。アルビレオの2つの星は実際には近くにあるのではなく、地球から見たとき同じような方角にあるため近くに見える見かけの二重星だ。
〇3級
■正答率の高かった問題
【問1】選択肢から自ら光っている天体を選ぶ問題(99.5%)。恒星が正答。
【問24】宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでどのように睡眠をとっているかを問う問題(96.5%)。微小重力下では体がふわふわ漂ってしまわない工夫が必要になる。
【問57】星座のβ星が、その星座で何番目に明るいかを問う問題(94.9%)。一番明るい星から順にギリシャ語のアルファベットが付けられているので、2番目が正解だが、付けられた当時の肉眼観測によるものなので、一部例外が存在する。
【問12】日本で虹の色として挙げられる7色を問う問題(92.8%)。日本では7色だが、国や時代によって、その色や数が異なる。日本では太陽を赤色で表現するのが一般的だが、欧米では黄色などを用いるという。人の感覚はさまざまでおもしろい。
【問17】惑星記号が示す惑星名を選ぶ問題(92.8%)。天文符号・惑星記号・星座記号に関する問題は3級の定番問題ともいえる。占星術にくわしい方にはやさしい問題だったかもしれない。海王星の惑星記号は海神ポセイドンが持つ三叉の戟に由来する。
■正答率の低かった問題
【問5】史上初の彗星着陸に成功した探査機を問う問題(9.3%)。着陸したのは、探査機「ロゼッタ」からチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に投下された「フィラエ」。2014年の出来事であるが、ロゼッタが打ち上げられたのは、そのおよそ10年前の2004年。64億㎞もの距離を飛行した。
【問56】火箭(かせん)が発明されたのがおよそ何年前か問う問題(21.7%)。火箭とは戦で火をつけて放たれた矢のことで、中国で発明されたロケットの祖といわれる兵器である。第二次世界大戦後、米ソの宇宙開発戦争を牽引(けんいん)したのもドイツが用いた兵器「V2ロケット」の技術者らであった。ロケットの歴史は戦争と縁が深いのである。
【問3】図に描かれた星座の位置から経過時間を選ぶ問題(28.9%)。北半球の天体は北極星を中心に反時計回りに1時間あたり15度の角度で円を描くように移動するという知識の応用。入試問題などにも出題されることがあるという問題である。
【問45】軌道傾斜角が最も大きい惑星を選ぶ問題(29.1%)。軌道傾斜角という語に戸惑ってしまった方が多かったようだ。惑星の軌道傾斜角とは、地球が太陽の周りを回る軌道をひとつの平面(軌道面)ととらえ、それを基準とした場合に、各惑星の軌道面がどの程度の傾きがあるかを表したものである。多くの方が金星を選んだようだ。金星の自転方向は他の惑星とは逆向きだが、軌道傾斜角は3.4度である。水星の7.0度がもっとも大きい。なお、惑星の軌道傾斜角以外にも、月・衛星の軌道傾斜角、人工衛星の軌道傾斜角、さらに連星の軌道傾斜角などもある。一般には、何かの基準面に対する軌道面の傾きを軌道傾斜角と呼ぶが、軸の傾きで定義することもあるので、それぞれの状況で学んでほしい。
【問51】日没にかかる時間について正しい記述を選ぶ問題(30.5%)。日の出・日の入りの時刻とは、太陽の上辺が地平線(または水平線)に一致する時刻をいう。したがって、日の出の時刻は太陽が出始めた瞬間で、日の入りの時刻は沈み切った瞬間の時刻となる。さて、赤道では太陽は垂直に沈むが、日本のような中緯度自体では太陽は斜めに沈む。そのため、日没の場合、太陽の下辺が地平線に接してから完全に姿を消すまでにかかる時間は、地球上では緯度によって変わる。そして緯度が高い地域ほど時間がかかることになる。
〇2級
■正答率の高かった問題
【問60】地球の歴史上5回あったといわれている種の大量絶滅のうち、年表から恐竜が絶滅したものを選ぶ問題(92.9%)。正解は白亜紀末の約6600万年前。チクシュルーブ・クレーターにその痕跡が残る。小惑星の衝突説は1979年に提唱された。
【問50】地球上の酸素の供給源とその濃度に関する問題(90.8%)。過去には地球誕生から現在に至るまでの大気成分の変遷を問う問題が出題されたこともある定番問題ともいえる設問。
【問7】同程度の大きさの銀河同士が衝突するときに起きる影響について考えられるものを問う問題(88.7%)。銀河の衝突はよく起こるが、星の衝突はめったに起こらない。ちなみに大型銀河が矮小銀河を吸収しても、大型銀河の側はたいして形が乱れない。
【問14】宇宙・地球・人体における元素の存在比の円グラフを選択する問題(87.6%)。人の体を作る元素は、星の誕生と死によってもたらされた元素でできている。天文学者が「われわれは星の子」と言うゆえんである。
【問30】生物の3条件に入らないものを選ぶ問題(87.3%)。ウイルスは、自己複製はするが、自身で代謝をせず、自力で増殖できないため生物には分類されない。
■正答率の低かった問題
【問29】宇宙線の主成分を問う問題(19.5%)。国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士の放射線被ばく軽減のためクルークォータという公衆電話ボックス程の大きさの設備があり、宇宙放射線を約9%減衰することができる。
【問39】軌道傾斜角と軌道周期および概略図から、その軌道の名称を問う問題(29.2%)。国土が高緯度にあるロシアでは、赤道上を周回する静止軌道は利用しづらいためモルニア軌道が考案された。軌道離心率が高く長楕円軌道になる特徴を図から読み取れれば正答に辿り着けるだろう。
【問4】恒星のスペクトルから得られない情報について問う問題(32.7%)。天球上での位置の変化はスペクトルからは得ることができない情報。
【問48】海王星の発見にまつわる天文学者の名前を問う問題(32.9%)。科学的な功績はその発見・発明を一番に公表した者にのみ与えられる。海王星発見者の栄誉に関するルベリエ、アダムス、ガレによる争いは有名である。
【問44】距離と見かけの等級から絶対等級を求める問題(37.3%)。ある距離にある恒星の等級が見かけの等級で、かりに、その恒星を32.6光年の位置に置いた場合の等級が絶対等級となる。したがって、恒星の距離・見かけの等級・絶対等級の間には関係がある。その関係(距離指数と呼ばれる)は、天体の明るさが距離の2乗に反比例すること、1等級の明るさの比が一定で約2.5倍であることなどから導くことができるが、その関係を図示したものが『公式テキスト2級』掲載の図表4-3である。距離指数の関係式には対数関数が出てきて少し難しいが、恒星の距離は天文学の基礎中の基礎なので、少し背伸びして、距離指数というものも調べてみてほしい。
〇1級・準1級
■正答率の高かった問題
【問20】温度が10 Kの分子雲と表面温度が4000 Kの前主系列星がそれぞれ最も明るく輝く波長の組み合わせを選ぶ問題(81.3%)。熱放射(黒体輻射)の基礎的な性質は知っておいてほしい。すなわち、低温の物体は電波や赤外線を、数千度になると可視光を、そして数千万度ぐらいではX線を放射する。またウィーンの変位則から、温度の比率は振動数の比率(あるいは波長の逆比)になることも感覚で覚えてほしい。
【問32】2024年2月に月面着陸に成功したJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」について誤った記述を選ぶ問題(80.4%)。ごく最近の時事問題で、正答率はもっと高いかと思っていたが、ピンポイント着陸やひっくり返ったことなどは有名だったが、XRISM衛星と一緒だったことや世界で何番目かは、案外と知られていなかったのかもしれない。
【問31】物質はないが宇宙項Λのある宇宙モデルの名称を問う問題(78.5%)。具体的な式などは出てこないので、1級参考書を丁寧に読んでいれば、解ける問題にはなっている。ただ正答した人も間違った人も、静止宇宙、ビッグバン宇宙、ド・ジッター宇宙の振る舞いの違いは、もう一度、確認しておいてほしい。
【問16】ある活動銀河の中心核をパーセクスケールに相当する空間分解能で電波観測したところ得られた輝度温度の観測結果の意味するものを選ぶ問題(74.8%)。温度には熱放射の温度以外にもいろいろあり、輝度温度の概念は比較的難しい範疇になるが、予想外に正答率が高かった。たとえば、非接触式電子体温計で測っているのは輝度温度だが、熱放射をしている物体(たとえば人間)の輝度温度は熱放射の温度と等しい。一方、太陽放射を散乱している青空の輝度温度は6000Kぐらいになるが、もちろん実際に空の温度がそんな高温なはずはない。また最近では、部屋の電灯がどんどんLED光源に変わりつつあるが、蛍光灯に比べてLED光源が眩しいのも輝度温度が高いためだろう。
【問8】アインシュタインの業績でないものを選ぶ問題(69.2%)。アインシュタインは自分自身が打ち立てた一般相対性理論でさまざまな予想をし、静止宇宙モデル、重力レンズ現象、重力波などは導いたが、意外なことに、静止した球対称のブラックホール解はシュバルツシルトが導出した。相対性理論から導かれる新しい現象は数多くあり、さすがのアインシュタインもすべてには手が回らなかったということだろう。
■正答率の低かった問題
【問5】日本が実施した宇宙での生命科学実験のうち、水棲生物実験用の装置で使われたことがない生物種を問う問題(10.3%)。さまざまな水棲生物種について実験されているので、たしかに難易度が高い問題だったといえる。
【問37】さまざまな天体現象を、発見順に正しく並べたものを選ぶ問題(14.0%)。天文学における大発見の続いた1960年代の話である。ダークエネルギー(宇宙の加速膨張)や重力波の直接検出そしてブラックホールシャドウの発見が続いた今世紀初頭も、後日、発見の時代と呼ばれるかもしれない。科学の流れは連続的なものなので、科学史の本や科学者の伝記などにも、ときには手を伸ばしてほしい。
【問25】静止した一様星間物質中における点源爆発のセドフ解の圧力、密度、速度の変化を表す3つ図の正しい組み合わせを選ぶ問題(14.0%)。これはセドフ解自体を知らなくても、問題文とグラフの読み取りから、ある程度は推理できる。まず周辺は静止した一様な星間物質なので、遠方では速度が0(縦軸の物理量が0)であるCが速度のグラフになる。圧力と密度の選択は少し難しいが、静止した星間物質中における点源爆発とは、ようは超新星爆発のことなので、爆発でガスが吹き飛んでしまうことを思うと、中心まで何かの物理量があるBでなく、中心で物理量が0になっているAが密度だという推測が正しい答えとなる。
【問18】大文字が2つ使われている星座の略符号の数を問う問題(17.8%)。正答は10個。この問題は内容的には3級に入るかもしれないが、たまには2級や3級の話も振り返っていただきたい。
【問11】質量Mの天体の周りを質量m の天体が、半径a 、角速度ωで円運動しているときの質量m の天体に働く遠心力fと角運動量Lを表す式の組み合わせを選ぶ問題(29.0%)。遠心力はニュートン力学で必ず出てくる式なので、比較的よく知られているだろう。わかりにくいのは角運動量の式だと思うが、回転にかかわる運動量の一種だと考えて、回転に関わるから回転半径aと回転方向の運動量と思えば回転速度aωになるので、m×a×aω、となるように考えるといいだろう。
〇第17回天文宇宙検定 講評
天文学に限らず、たいていの学問は積み上げ方式になっている。“楽しみながら学んでもらいたい”天文宇宙検定も、積み上げ方式に関しては例外ではない。4級・3級では、天文学の基礎的な用語や概念、そして主な天体現象が美麗な画像とともに“紹介”してある。その結果、どうしても検定問題は暗記物が中心になってしまうキライはあるが、ここはまだ“紹介”なので、、“紹介”の先に興味を繋いでほしいのだ。たとえば、星座や星の名前は“なぜ”そんな名前や決まりになったのかなど、古代から近代までの天文学の流れや、天体現象は“なぜ”起こるのかなど、宇宙を統べるルールの存在に思いを馳せてほしいわけだ。そして2級テキストで、天文学の基礎知識をベースにして、天体現象の“なぜ”が少しだけ紐解かれてくる。同時に、物理学や数学の概念や手法が出てきて、なにより、数式も少し使われ始める。天文学で使われる数式を読み解くためには、さまざまな学問分野の手助けが必要なためだが、だからこそ、天文学は難しくも面白いのだ。
さて、新しい受験者も増えてきたようで、あらためて数式について、少し述べてみたい。まずは、数式の表現自体が重要なのではなく、重要なのは数式で表されている内容だという点を、あらためて強く述べておきたい。万有引力の法則も言葉で表せば3行にも4行にもなるが、数式だと、いくつかの約束事を決めておけば、1行で簡潔に表現できる。そしてまた計算もとてつもなく楽になる。2級さらに1級になると、どうしても“数式の壁”が現れ、その壁を乗り越えないと進めない部分が出てくるだろう。そんなときは、一度、数式で書かれた内容を、文章で表してみてほしい。たとえば、今回の1級【問11】で出てきた角運動量Lの式ma2ωは、“角運動量とは回転方向の運動量のようなもので、質量と回転半径と回転速度を掛けたものになる。ただし、回転速度は回転半径と回転角速度を掛けて表すこともできる”あたりだろうか。後は、質量にm、回転半径にa、そして回転角速度にωの文字を割り当てれば角運動量の数式になる。言葉による表現でも数式による表現でも、表している内容は変わらない(慣れれば数式の方が便利だというだけ)。実は、さらに重要で面白いのは、そのまた先である。天体現象を数式で表せたとして、ではその数式はいったい“何を意味しているのか”という謎だ。だんだん禅問答のようになってきたが、たとえば万有引力の法則がいい例だろう。言葉でも数式でもいいが、万有引力の法則が表されました。では、質量とはなんですか、なぜ距離の2乗に反比例するのですか。ニュートンでさえ、この問いには答えていない問題なので、ますます禅問答になっていきそうだが、そんな謎の階段を少しずつ上っていただきたいと思う。
しかしながら、翻って見ると、2011年に第1回が実施された天文宇宙検定も、いつの間にか、10数年も続いた<面白>イベントになってきた。そして、3級・4級に立ち戻ると、今回(も?)、3級・4級ともに、最年少受験者は5歳、最高齢受験者は85歳となっている。世の中のイベントで、子供から大人まで参加するものは多いだろうが、5歳から85歳の範囲の人が、“同時に同じ土俵で同じ試験を受けている”というようなものは多くはないだろう。そう思うと、これはある意味すごいことではないだろうか。今後の行く末も楽しみである。
2024年9月吉日
天文宇宙検定委員会