公式ブログ

○第8回天文宇宙検定受験者データおよび講評

○第8回天文宇宙検定(2018年10月21日開催)


●最年少受験者

1級 12歳
2級 9歳
3級 3歳
4級 3歳
※年齢は受験申込時に受験者本人様に提出いただいた情報によります

 

●最高齢受験者

1級 73歳
2級 78歳
3級 85歳
4級 75歳

 

●受験者男女比率

1級:男性 84.9%、女性 15.1%
2級:男性 65.5%、女性 34.5%
3級:男性 56.3%、女性 43.7%
4級:男性 51.7%、女性 48.3%

 

●合格率

1級:0.8%
2級:29.2%
3級:64.6%
4級:76.1%

 

●最高得点

1級:72点
2級:95点
3級:98点
4級:100点(3名)

 

●平均点

1級:43.2点
2級:60.8点
3級:64.9点
4級:68.9点

 

○第8回天文宇宙検定講評

■4級

10代未満・10代の若年層が全受験者に占める割合は、前回に引き続き増加した。4級だけでみても5割を超えている。これは、試験直前の2018年の夏に火星大接近があって、学校やメディアで宇宙に触れる機会が増えたことが影響したのかもしれない。合格率をみると、10代未満:54.3%(前回70.2%)、10代:71.5%(前回:80.5%)と20代未満世代で大きく下げている。4級全体の合格率が、第6回(85.8%)、第7回(83.2%)であったのが、今回は76.1%と下がっているのは、勉強が間に合わなかったためと推測される。大人世代は例年通りの安定した合格率で、20代:93.5%、30代:88.1%、40代:83.8%、50代:86.1%、60代以上:95.6%であった。
正答率が高かった問題のうち、正答率が90%を超えたのは次の3問であった。【問23】月のクレータができた主な原因を問う問題(正答率97.4%)、【問10】1年のうち、日本で一番昼が短い日を問う問題(正答率92.3%)、【問26】夏の大三角を形づくる3つの星の組み合わせを問う問題(正答率91.4%)。いずれも、4級では定番といえる問題である。
正答率が低かった問題のなかでも突出して正答率が低かったのが、【問13】こと座のM57という環状星雲の位置を正しく示した図を選ぶ問題(正答率16.3%)。4級には時折、高い応用力を求める問題が1、2問出るのが慣例ともなっているが、今回はまさしく本問がこれであろう。オリオン大星雲や環状星雲は、テキストに写真入りで登場する美しい星雲だが、夜空のどのあたりにあるのかを知っていると夜空を見上げたときに楽しみが増すので、ぜひ確認しておいてほしい(ちなみに、オリオン大星雲は都会を離れれば、眼のよい方なら肉眼でもモヤっと見える)。次に正答率が低かったのは【問35】南半球で使う星座早見盤を図から選ぶ問題(正答率29.7%)。星座早見盤の問題は頻繁に出題されるが、今回は少しひねりがあって、戸惑う方が多かったようだ。南半球では天の南極を中心に星が巡るので、北半球で使う星座早見盤は使えない。続いて【問25】1月上旬ごろ、毎年流れる流星群を選ぶ問題。12月中旬ごろに見られるふたご座流星群を選んでしまった方が多かった。
また、入試問題でも時折みられる月の満ち欠けに関する問題が、今回も出題された。【問18】月・地球・太陽の位置を表している模式図から、A・B・C・Dの位置に見える月の名前の正しい組み合わせを選べというもの。図をじっくりと見れば、満月と新月になる位置はわかるであろうが、上弦の月と下弦の月まで判断できるのはお見事。正答率は85.2%もあった。

 

■3級

最も受験者が多いのが3級。まずは3級から挑戦という方も多くみられる。近年、3級合格率は下降傾向がみられるが、今回は64.6%と過去最低であった(第6回:81.8%、第7回:69.7%)。得点分布でみると50~59点の合格までいま一歩という層が増加している。3級は中学生程度を対象としているが、受験者の年齢別構成は、10歳未満と10代をあわせると、3級受験者の1/3を占めており、少し背伸びをしたが残念ながら届かなかったという若年層が多いようだ。
正答率が9割を超えたのは、以下の5問。【問21】皆既日食が起きる原因をたずねる問題(正答率94.9%)、【問55】惑星の見え方に関する文から誤った説明を見つける問題(正答率92.7%)、【問32】石炭袋と呼ばれる部分についてその正体を問う問題(正答率92.4%)、【問29】地球と太陽間の距離を光速から導く問題(正答率92.1%)、【問30】北半球と南半球で同時刻の月の見え方の違いを問う問題(正答率91.0%)。
正答率が低かった問題は、【問56】2018年7月の火星大接近の最接近日にどの星座の方向に火星が位置したかと問う問題(正答率16.7%)。テキストには図が示されていたが、ニュース等でも取り上げられることはほぼなく、難問であった。【問36】星座の正式名称が何語であるかを問う問題(正答率31.7%)。正解はラテン語であるが、星の名前がアラビア語に由来するものが多いという知識が邪魔をして間違えた方が多かったようだ。【問50】日本の宇宙開発史の中の主要な出来事4つから、最も新しい出来事を選ぶ問題(正答率33.8%)。毛利衛宇宙飛行士が初めてスペースシャトルに搭乗したのは1992年の出来事で、30代以上において正答率が高いのもそれだけ印象的な出来事であったからであろうと思われる。

 

■2級

2級からはテキストの記述内容も増え、応用力も試されるので、例年、合格率は低くなる。年齢別にみる受験者は、20代が約1/3であり、合格者では20代が28.6%を占めた。40代以降の受験者に女性がぐっと少なくなる傾向がみられる。
得点分布は、50点台が22.0%、60点台が26.0%。今回は合格となる70点の壁は意外に厚かったようで、合格率は29.2%と前年を大きく下回った(第7回合格率:45.1%)。例年、試験問題に計算問題があると時間を取られてしまうという声がでるのだが、今回は定番のケプラーの法則を用いた計算問題はみられず、いかにテキストを読み込んだかが合否を分けたように感じられた。
正答率が9割を超えた問題は3問。【問22】主系列星の中心部で水素が核融合したものが溜まっていく部分の名称を問う問題(正答率93.0%)。核融合によってヘリウムが発生すると理解していれば、名称はそのものズバリなので、正答率が高くなるのは自明の理である。【問26】ハビタブルゾーンの説明で誤っているものを選ぶ問題(正答率91.5%)、【問37】HR図に示した4点から、最も星の表面積が大きいものがどの位置にあるか問う問題(正答率91.5%)については、2級テキストを読んで臨めば正答にたどり着くのは比較的たやすい。
正答率の低かった問題のうち、20%を下回ったのは以下の2問。【問8】紀元前433年に19太陽年が235朔望月にほぼ等しいことを発見した科学者を問う問題(正答率12.2%)、【問43】太陽ニュートリノ問題の説明のうち間違っているものを選ぶ問題(正答率19.7%)。いずれも2級テキストの口絵やコラムなども、しっかり読み込んでいないと惑わされる問題。続いて正答率20%台であったのが以下の2問。【問58】2017年に発見されたTRAPPIST-1について誤った説明を選ぶ問題(正答率26.7%)。これは既に3000個以上発見されている系外惑星のなかでも特異なものとして、テキストに取り上げられているので、正答率が低かったのは残念であった。【問9】宇宙線に関する説明から間違っているものを選ぶ問題(正答率29.3%)については、宇宙線が電磁波であると誤解している方が多かった。

 

■1級

今回の1級受験者数は微増したものの、合格者はごくわずか。合格率は0.8%となった(第7回合格率:5.3%)。今回久しぶりに20代の合格者が出た。
得点ピークが40点台(44.5%)と例年よりも低めであった。そのため、準1級の合格者も昨年を下回る結果となった。ちなみに、その他の得点分布は、20点台9.2%、30点台23.5%、50点台16.8%、60点台(準1級合格者)5.0%。受験者を年齢別にみると50代が31.9%と最も多く、次いで60代が25.2%、40代が12.6%と続く。男女比が大きく男性に傾くのも1級の特色のひとつである。
正答率が高かった問題でも80%を超えなかった。正答率が70%を超えたのは以下の5問である。【問4】ISSで進められている、生命材料となる有機物が地球にやってきた可能性を調べる実験の名称を問う問題(正答率79.8%)、【問5】グラフから吸収線の名称を選ぶ問題(正答率79.0%)、【問38】太陽の周縁減光効果の原因に関連する事柄を選ぶ問題(正答率78.2%)、【問24】宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に「そらの孔」として登場する天体の名称を問う問題(正答率73.9%)、【問35】人工衛星に用いられている断熱材を固定する素材を問う問題(正答率73.1%)。
正答率が20%を超えなかった問題は次の4問。【問30】恒星の空間密度を表す式を問う問題(正答率14.3%)、【問11】第2ラグランジュポイントに設置されなかった天文衛星を問う問題(正答率16.8%)、【問33】変光星命名法のアルゲランダー記法で決められる星名数を問う問題(正答率18.5%)、【問26】衝撃波前後の物質流量の関係(質量保存の式)を問う問題(正答率19.3%)。1級の問題は参考書『超・宇宙を解く』の内容より多数出題されているので、読み込んでおくことをおすすめする。

 

■総括

今回から、試験会場に小松・茅ヶ崎・岡山を加え、全国10カ所に試験会場が増えたことはたいへん喜ばしく、また、各試験会場の運営に御協力いただいている皆様には心より御礼申し上げたい。
今回も幅広い年齢層の方々に挑戦していただけた。受験者数は10代と40代にピークがあり、男性の比率が多いことにも変化はないが、この数年、10代および10歳未満の受験者数が男女ともに徐々に伸びているのは嬉しい限りである。
さて、例年の総括同様、まず、本検定のココロから復習すると、本検定は天文や宇宙に関わるあらゆるモノゴトについて徹底的に楽しんでいただきたいことが目的である。そのため公式テキストには、基礎的な知識をまとめると同時に、普通の教科書には書かれないトリビアな知識や、最先端の発見なども詰め込まれている。またフルカラーの写真や説明図も多用してある。そして検定問題では、基礎的な問題とともに、意外で裏をかくような問題もコラムや傍注の片隅から出題してあるわけだ。もっと図版や写真を使った問題を出題できると、検定問題も目で見て楽しめるようになると思うが、これは出題者および監修側の今後の課題である。また2級や1級では数式も出るようになり、数式を使った問題はしばしば正答率が下がるが、逆に、数式を克服していけば、新たな地平が拡がることを知っておいて欲しい。数式(公式)というものは、もともとは何十行もの言葉で表していた内容を、それではあまりにも面倒なので、言葉の内容を記号に置き換えて、1行にまとめたようなものだ。具体例を挙げれば、“質量をもった2つの異なる物体の間には、それぞれの物体の質量の積に比例し、物体の重心の間の距離の2乗に反比例する力が働き、その力はお互いを引き寄せる引力であり、比例定数を万有引力定数と呼ぶ。”という言葉で表した内容を式にまとめたものが、F=-GMm/r2、となる。したがって、数式(公式)は丸覚えをするのではなく、その内容を言葉で覚えて欲しい。数式について、もう2つトリビアなこととしては、①記号(変数)の多くはその記号が表す物理量の英語の頭文字である。②数式の等号の両辺では、式の値が等しいと同時に単位も等しい。これらを知っておくと数式の制覇に多少は役に立つだろう。最後に1級の合格率が今回も低いことについて、これは初回からの懸案事項であり、準1級は設けたものの、1級のレベル自体は下げていない。これは天文学に限らず、中学や高校で学習する内容と、大学の専門課程で学ぶ学問は、知識の量と質において、それぐらいの隔たりがあることの結果なのである。何だか、最初に書いた“楽しんでいただきたい”というフレーズに反しているようだが、むしろ“徹底的に”の方を表していると思って欲しい。1級をクリアしたということは、大学の天文学科レベルの力を身に付けたと思ってもらって差し支えないのである。最後に、監修側としては、本検定をクリアして終わりではなく、さらに先へと進んで欲しいと思っている。たとえば、本検定2級までをクリアした人は、今度は検定問題を作る側に回り、問題作成の楽しみを味わってもらえないかと夢想している。さらに1級をクリアした人は、大学の研究室などで実際に卒業研究の体験などをしてもらえるといいなと妄想しているが、受検者のみなさんはいかがだろうか。

2019年1月吉日
天文宇宙検定委員会

  
 
   
   このエントリーをはてなブックマークに追加

カテゴリー : その他