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第6回天文宇宙検定受験者データおよび講評

○第6回天文宇宙検定受験者データ

第6回天文宇宙検定(2016年10月9日開催)
●最年少受験者
1級 12歳
2級 7歳
3級 7歳
4級 6歳

 
●最高齢受験者
1級 66歳
2級 80歳
3級 80歳
4級 76歳

 

●受験者男女比率
1級:男性 85 %、女性 15 %
2級:男性 64 %、女性 36 %
3級:男性 53 %、女性 47 %
4級:男性 60 %、女性 40 %

 

●合格率
1級:13.2%
2級:63.8%
3級:81.8%
4級:85.8%

 

●最高得点
1級:78点
2級:98点(3名)
3級:100点(2名)
4級:100点(2名)

 

●平均点
1級:56.2点
2級:71.7点
3級:72.4点
4級:73.5点

※準1級は、1級試験で60~69点を取得した者

 

○第6回天文宇宙検定講評

■4級
年齢別に4級受験者をみると、例年通り10歳未満と10代で受験者の5割以上を占めている。そして、もうひとつのピークがその親世代である30代・40代。親子で一緒に勉強して挑戦されるスタイルが定着しているようだ。試験会場で頂戴したアンケートからは、親子で楽しんでいただけた様子や、記憶力でお子さんに脅かされる親御さんの焦りをお伝えいただいて、楽しく拝読させていただいた。
今回の4級の平均点は73.5点で、昨年の66.0点を大きく上回り、合格率も20%ほど上がっている。試験問題は、毎回、公式テキストの全章からまんべんなく出題されており、開催回ごとに難易度に差が出ないよう平準化に努めているので、今回の試験問題が昨年よりも易しかったとは考えていない。しかし、正答率が9割を超える問題が、前回は3問であったのに対して、今年は8問と多かった。正答率が高かった問題をみてみると、いわば定番問題といえる問題が多いところから、過去の試験の傾向分析をし、定番問題をしっかりチェックして試験に臨まれた方が増えてきたものと思われる。
ちなみに正答率の高かった順に8問を挙げると、
【問29】天体写真からその名前を問うもの(正答:彗星、正答率96.9%)。
【問2】星座を形作っている天体の名前を問うもの(正答:恒星、正答率96.0%)。
【問24】太陽と関係のない語句を選ぶ問題(正答:火球、正答率93.2%)。
【問40】星座早見盤の説明のうち間違っているものを選ぶ問題(正答:同じ星座早見盤で世界中どこでも使える、正答率92.0%)。
【問9】月の説明で間違っているものを選ぶ問題(正答:月の直径は地球の約半分である、正答率91.4%)。
【問8】日本から見た太陽の一日の動きについて正しいものを選ぶ問題(正答:東—南—西、正答率91.4%)。
【問25】太陽系の惑星の特徴から間違っているものを選ぶ問題(正答:火星が太陽系惑星の中で最も小さい、正答率91.0%)。
【問11】環のない太陽系惑星を選ぶ問題(正答:金星、正答率90.7%)と続く。

正答率が最も低かった問題は、
【問28】4つの選択肢のなかで、双眼鏡で観察するのに向いていないものを問う問題(正答:土星の環、正答率:25.9%)。オリオン大星雲を選択してしまった方が多かったようだ。双眼鏡では土星の環を観測することの方が難しい。テキストで学ぶだけでなく、実際に天体観望を体験してもらうことをお勧めする。
【問19】星の並びから星座名を答える問題(正答:やぎ座、正答率:27.5%)。12個ある誕生星座は覚えておきたいところである。
【問32】金星の見え方を問う問題(正答:金星は地球から遠くにあるときには、小さく見え、満月のように円に近い形に見える、正答率:28.4%)。この問題は、4級の試験問題のなかでは難易度が高い問題である。
以上の3問だけが正答率で20%台だった。正答率が3割以下の難しい問題が、例年3問程度潜んでいるのも、当検定4級試験のひとつの傾向でもある。

 

■3級
3級は受験者数が一番多い級である。受験者数は全世代で増加したが、10代男性と20代・30代女性の受験者が多い傾向にも、男女比にも変化はなかった。
ここ数年、3級の合格率は65%前後で推移してきたが、今回は第1回検定に迫る81.8%と大きく伸びた。平均点も72.4点と高得点であった。世代別の合格率では、10代の合格率が67.2%と低く、苦戦した様子がみられる。これは、学校単位での団体受験者が多い3級に特徴的な傾向で、一般受験の方々と比べて、十分な試験対策をせずに臨まれる傾向が表れたものと思われる。3級は中学生レベルとはいえ、予備知識だけで合格はおぼつかないので、テキストを熟読してからの受験をお勧めする。
さて、正答率の低かった問題をみてみよう。
【問34】太陽系の惑星とギリシャ神話の登場人物の名の関連を問う問題(正答:ハデス、正答率26.1%)。ハデスは冥王星を表す神の名だが、冥王星は準惑星に分類されている。
【問41】太陽系・惑星系・恒星系・銀河系の中から仲間外れを選ぶ問題(正答:銀河系、正答率27.9%)。
【問40】世界で初めて有人宇宙飛行を果たした宇宙船を選ぶ問題(正答:ボストーク1号、正答率38.1%)。スプートニク1号を選んだ方が多かった。
【問24】日本人が初めて宇宙に行ったときに乗ったものを選ぶ問題(正答:ソユーズ、正答率:40.8%)。公式テキストでは、宇宙開発史は年表で提示されている部分が大半なので、記憶に残りにくかったのかもしれない。天文学史に関しても同様だが、受験される方々には、テキストだけでなく、他の関連書籍を読んでみることもお勧めする。同じ事柄であっても、著者が異なる別の書籍でトレースすることは、蓄積された知識を深く刻むことに効果があるはずである。

今回は、4級と同様に3級も、9割以上が正解した問題が多く、11問あった。その一部を以下に挙げてみる。こちらも3級の定番問題といえる問題であった。
【問33】自ら光っている天体の名前を選ぶ問題(正答率99.0%)、
【問9】古代中国の五惑星に含まれていない惑星を選ぶ問題(正答率97.7%)。
【問59】天文単位を正しく説明しているものを選ぶ問題(正答率96.0%)。
そんななか、【問14】私たちが普通に夜空に見ている星々は、地球から1000光年程度の距離の星々と考えることができるならば、これらは銀河系の図のどの範囲の星々と考えられるか(図から選択する)という問題は、暗記だけでは正答にたどり着き難く、正解を知った後、改めて、宇宙の広さを実感できる。本検定の趣旨である「考えることを通じて何らかの行動を起こすきっかけをつくる」問題であろう。

 

■2級
前回、出題数を80問から60問に減じたことで、応用力を試す粒選りな問題が多く採用され、2級合格率は5.7%まで大幅に下がったが、今回の合格率は63.8%と、第1回に次ぐ高い合格率で、平均点は71.7点となった。2級受験者を男女比でみると、例年通り、男性が女性の倍近くである。世代別にみると、今年は60代以上の受験者が少なかったようだ。世代別合格率をみると、10代の学生の合格者数は増加しているものの、80代=100%、60代=80.6%、40代=75.4%、50代=72.4%、70代=62.5%と続き、明らかな年配者優位の傾向がみられた。
正答率が低かった順に試験問題をみてみよう。
【問4】見かけの等級の数値が最も小さくなる天体を選ぶ問題(正答:金星、正答率24.2%)。
【問1】宇宙が膨張しているという観測事実と相容れない主張はどれか(正答:観測できる宇宙の大きさは138億光年である、正答率27.1%)。今年受験されたある方が、「2級の試験は、最初の方に難しい問題を出して出鼻をくじく」という、我々も自覚していなかった傾向を教えて下さったので、今後のために記しておこう。
【問52】表面温度が等しく半径が10倍違う2つの恒星を比較した場合の絶対等級の関係を問う問題(正答率29.6%)。
【問60】太陽と同じ質量の星が原始星から主系列星になるときの経路を問う問題(正答率40.3%)と続く。設問と解説は解答速報に詳しいので、そちらを参照願いたい。

正答率が高かった問題は、以下のとおり。
【問21】現在考えられている宇宙の年齢は?(正答率97.4%)。
【問8】古い天体観測記録の記述の抜粋から当時観察されたものを選ぶ問題(正答率93.8%)。
【問31】ブラックホールの説明で誤っているものを選ぶ問題(93.1%)。
【問14】こと座のベガはおとめ座のスピカよりおよそ何倍明るいか?(正答率93.0%)。
【問28】源平の水島の戦いの最中に起こった天文現象を問う問題(正答率92.2%)。
【問50】太陽黒点の増減周期を問う問題(正答率91.6%)。
【問11】宇宙の階層構造でサイズの大きさ順を問う問題(正答率91.2%)。
【問45】星の進化の道すじを問う問題(正答率90.6%)。
【問2】太陽黒点の特徴に関する文章の穴埋め問題(正答率90.2%)。

試験問題は他の級と同様、公式テキスト全章からほぼ均等に出題されるのだが、計算力を要する問題が4問程度出題されると、平均点が大きく下がる傾向がある。今年はその点において、計算に時間を取られる問題が重ならなかったという点も合格率が伸びた点に影響を及ぼしたものと考える。本検定は試験時間も短いので、桁数の多い問題や、一般にはあまり馴染みのない天文計算に特化した「計算ドリル本」を求める声が寄せられている。問題集の内容改訂も含めて、対策を検討したいと考えている。

 

■1級
最も多い受験者年齢層は50代の45.3%。続いて40代の24.5%、30代の11.3%と続く。10代・20代は共に5.7%であった。ぜひ若い方々にも挑戦して頂きたいところである。今回の1級試験の合格率は13.2%、最高得点は78点であった。過去を振り返ると、71点(第2回)、73点(第3回)、77点(第4回)、78点(第5回)と推移している。今回は初の女性合格者が生まれている。
1級受験者のうち60点以上を獲得した方を準1級として認定しているが、今回の準1級の合格率は20.8%であった。

正答率の低かった問題を挙げてみよう。
【問6】宇宙からの電波受信の報に刺激を受けたグロート・リーバーが、最初に3300MHzという大きな周波数を選んで検出を試みた理由を問う問題(正答率9.4%)。
【問14】40億年前の太陽が現在よりも30%ほど暗かったと考えられる要因を選ぶ問題(正答率13.2%)。
【問39】アポロ計画で宇宙船に積み込まれたコンピュータメモリが4KB程度であった理由について問う問題(正答率13.2%)。
【問34】国友一貫斎が行わなかったことを問う問題(正答率18.9%)、などである。

正答率の高かった問題を見てみよう。
【問15】国際宇宙ステーションへ物資を補給する宇宙ステーション補給機の写真からその名称を選ぶ問題(正答率92.5%)。
【問40】系外惑星の観測データを集約した図で、ホットジュピターに対応しているグループを正しく示しているものを選択する問題(正答率86.8%)。
【問11】水素の核融合反応が進み、赤色巨星へと進化する過程に関する記述4つのうちから誤りを選択する問題(正答率86.8%)。
 なお、【問26】は、褐色矮星の説明として誤っているものを選ぶ問題であったが、ダークマターの定義や使用法が、現在では、人や文脈によって意見が分かれてしまっていることを重視して、本問題を無効とし、全員正解とした。

 

■総括
本天文宇宙検定のココロとしては、通常の天文学の対象はもとより、宇宙開発や生命や歴史まで幅広く、天文や宇宙に関わるあらゆるモノゴトについて、とことんまで楽しんでいただきたいということに尽きるだろう。最初の段階としては、4級テキストや3級テキストに多く載っているように、美麗な天体写真を楽しんでもらい、さらに、3級テキストの最初にあるように、モノゴトの名前や由来や性質などの知識を少しずつ学んでもらえればよいだろう。そしてそれらをきっかけに、2級テキストやさらには1級テキストに書いてあるような、モノゴトのより深い科学的理解へと進んでいただきたい。そのために、公式テキストは、教科書的な知識を羅列するのではなく、読者に驚きをもって受け止められるような興味深い知見や、アレっと思ってもらえるような意外なトリビア、そして教科書にはまだ載っていない最先端の発見など、できるだけ楽しめるような内容で、毎回の改訂を行っている。改訂を繰り返すごとに、少しずつはテキストもわかりやすく面白くなっているはずで、アンケートを読む限り、その点については十分に評価していただいているようだ。一方、短期間で改訂を行うため、隅々まで目が行き届かず、誤植や間違いが残る点については、できるだけ改善しなければいけないと反省している。
さて、前回は、3級と2級の出題数を減じたにもかかわらず、3級の合格率は平年並みだったが、2級の合格率が大きく下がってしまった。出題数が減って問題が精選されたためだと考えられる。しかしながら、今回は、3級と2級を含め、すべての級で、平均点・合格率が大幅に上昇した。公式テキストの改善の成果もあると思いたいが、もちろん多くは受検者の熱意と努力の賜だろう。今後も、受検者の方々、検定問題出題者の先生方、公式テキストの執筆者のみなさま、そして天文宇宙検定委員会全体で、天文宇宙検定を盛り上げ、より楽しめる内容に育てていければと思う。

 

2016年12月吉日
天文宇宙検定委員会

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